0日目 <見えない答えと真実> =1=
近衛たちをボロ雑巾のようにした後、医療班(とメリアさんは呼んでいた)たちがせっせとボロボロになったそれらを運んで行った。
俺とメリアさんは様子をじっと見てからその場を後にした。
次の場所へ着くまでの間の会話がなかったのだが、メリアさんがぽんと言った。
「トウヤ様は、本当に人間なのですか?」
「そのはずだけど、ここまで来ると自信が揺らぐ」
「魔王様を殴り飛ばし、近衛全員をボコボコにするなど、魔界の住人の中でもできるものなど……いたとしても片手で数えられるくらいの人物しかできないはずです。可能性としては、トウヤ様がなにかをされていたか、本当は人間ではないかとしか思えません」
そうは言われても、心当たりは全くない。そう返答すると「そうですか」とただ一言返答をされ、以後会話が発生しなかった。
おおよそ俺に関係がありそうな部屋の紹介を終えた後は、何もすることがなかった。
部屋でのんびりとしているのも性に合わないので、出歩くことにした。
「……とはいえ、何をしたものか」
出たはいいが、出ても本当になにもやることがなかった。
「……ちょっと、貴方」
ぼんやりと歩いていたら、会ったこともない血のように真っ赤な髪の女に声をかけられた。
「誰?」
「ん、ああ、そうか。私のことを知っているかと思ったのだけど、そういうわけではないのね……って、見たことはないが厄介そうなのに会っちまった……って顔に書いてるわよ」
「厄介とは思ってない。鬱陶しそうなのがいるな。って思っただけだ」
「人間風情が……気に触るわね。ちょっと死んでくれない?」
ヒュっと、風が俺の耳元を横切る。正確には俺の顔面があった場所だ。
いやな予感がして少し体をずらしたのは良いことだったらしい。
「へぇ、面白いわね」
獰猛な笑みを浮かべる女。だが、俺はいろいろと晴れていなかった鬱憤がたまっていた。
お気に入りのシャツを破ったバカがいて、食べ物を粗末にするバカがいて(これは一番俺の中でよくないこと)
「……宣戦布告と受け取る。とりあえず殴り飛ばす」
「へえ、できるものなら……」
言葉の途中で、顔面を殴り飛ばそうと全力で殴ったが、両腕でガードされた。だが、何故か面白いほど後ろに吹っ飛んだ。
吹っ飛んだはいいが、足でブレーキをかけて壁すれすれのところで静止した。
「……人間の、攻撃の威力じゃ、ないわね」
今度は顔面をつかんで、後頭部を壁に叩きつける。続いて、両手で頭を押さえて、額に膝蹴り。数度入れたところで、再びいやな予感がした。
すぐさま距離をとると、直後に透明な壁のようなものが出てきた。
「はぁ、はぁ、はぁ、ここまで、ダメージを受ける、なんて思わなかったわ……」
額から血。左腕はだらんと垂れていた。だが、目から獰猛さは消えたものの戦意は残っている。
一気に決着をつけることができればよかったのだが、それができなかった。
ここからどうすればいいのか、俺には解らない……はずだ。
はずなのに、壁のようなものが吹き飛ばせるような、いや、粉々に粉砕できるような気がしてならなかった。
ここで待っていても、あるのは俺の死だろう。
だったら、行動するまで。
距離をとった分、
一気に、踏み込んで、
右腕を、力強く、
後ろに引いて、
その腕を、突き出す!
……バリィィィン
壁が粉々に砕け散った。砕け散らせたはずなのに、右腕の威力は死んでなかった。
残りの威力は、相手の腹部に俺の右ストレートがめり込んでいた。
「……は、はは、私も、焼きが回った?……いや、貴方が、規格外、なの、ね」
ゴポッ、という音とともに、口から血を吐いて、前のめりに女は倒れた。
倒れた女を支えながら、俺は思った。
……俺は、どうしたんだろうか。と。