0日目 <魔界にやってきました> =1=
目が覚めると、椅子に座らされているようでした。
目の前には偉そうに座ってワイングラスを傾けている人物。左右にはメイドらしい人が立っている。
……黒いマントに黒いスーツのような服に赤ネクタイって、どこのコスプレですか?
じっとコスプレイヤー(?)を見つめていると、見られているのに気付いたのかこっちを見てきた。
「ほう。お前が我が庭園にいた無礼者か……」
見下すような笑みを浮かべたのちに、ワイングラスを投げ捨てる。弧を描いたグラスは床に落ち、カシャンと割れ、中身は床にぶちまけられる。
すっと立ち上がり、こちらに向かって歩き出してきた。
止まったのは俺の3歩ほど前、右の人差し指と中指を俺のあごに添えて、俺の顔を上げてじっと見つめる。
「貴様、どこの者だ?間諜にしては間抜けすぎる。いや、それよりも魔族の証がどこにもない」
しばらく顔を見つめた後に、俺が着ているシャツを両手で胸元をつかんで、左右に引っ張る。
つまり、シャツが引き裂かれた。
このシャツ、
かなり人気で、
結構高い。
デザインが、
ものすごく、
お気に入り。
このデザインは、
もう生産されない、
もう手に入るとは思いにくい、
シャツ……。
そう考えた俺は爆発した。
「……どこにもないな。む、何だ?ようやっと自分の罪を……」
拳をグーにして、相手のガラ空きのボディに向かって
「何しやがんだーーーーー、この変態がぁぁぁ!!」
全力で左でアッパーを放った。
アッパーはボディ(後で聞いた話がみぞおちにたたきこまれていたとのこと)に吸い込まれるようにぶち込まれる。ぶち込んだときにバリン、とガラスを割ったような音とともに変態は「く」の字のまま少し宙に浮いた。
怒りがおさまらない俺は、宙に浮いた変態にとどめをさすべく、今度は右でストレート。相手の左頬に面白いようにガラスを割る音とともに吸い込まれるように叩き込んだ。
変な声とともに変態は吹っ飛ばされる。
メイドらしき人は唖然としている。
まだ怒りがおさまらない俺は、追い打ちを叩き込みに行く。
転がっている変態の左に立ち、足を上げる。
そして、ストンピング。
「この、変態、外道(以下過激な罵詈雑言につき規制)」
ゲシゲシとストンピングを連続で叩き込んでいると、後ろから両腕をロックされ、「や、やめてください。魔王様の意識はゼロです」とどこかで聞いたようなことを兵士っぽい人たちに涙目ながらに言われながら後ろへ引きずられた。
この行動は後に「魔界に来た初めての人間」という伝説とともに「歴代魔王を初めて殴った人物」「魔王が恐れる唯一の人物」という伝説にもなることは俺は知らなかった。