3話 ロリコンじゃないです
学校から帰る時間になると、夏希はもち屋の軒下で待っている。俺とモチ太を見つけると、駆け寄ってきて、
「おかえりなさい!」
と笑顔で出迎えてくれる。
これを見れば、さすがに有原の誤解も解けるだろう。
「……洗脳までしてるなんて」
ダメだった。余計に疑惑が強まってる。
スマホを見ながら、「洗脳を解くには」とか不穏なことを言ってる有原。女子高生の不審者を、不思議そうな顔で見る女子小学生。
「ユイくん、そのお姉さんだれ?」
「誰……誰だろうこの人。不審者かな」
いきなりバスで声を掛けてきて、人を犯罪者呼ばわり。行動があまりにも不審だ。警察に行ったらたぶん俺が勝つ。
「ちょっと! 不審者が人のことを不審者とか呼ばないでくれる?」
「お姉さん不審者さんなの?」
つぶらな瞳で有原を見上げる夏希。こんな少女に疑われるなんて心外だったのだろう。有原は明らかに動揺していた。
「そ、そんなはずないでしょ。私は普通の人。それより、あなたの隣にいる人とはどういう関係なの?」
「ユイくん?」
「そう。その人」
「ユイくんはねー。ナツの王子さまなの」
当たり前のように言うと、夏希はぎゅっと俺の右腕にしがみついてくる。
うん。その行動はちょっとアウトかも。
「……ロリコン」
「違うって」
「王子さまなんでしょ」
どうしよう。横からは夏希が「ユイくんは王子さまだよ。そうだよね。うんって言ってくれるよね」と視線で訴えているし、正面からは有原が「どうなのよ。ねえ、ロリコンさん」と圧を掛けてくる。モチ太は「なにそのシチュエーション裏山」などと意味不明な発言をしている。
否定すれば夏希が文句を言い、肯定すれば有原にロリコン扱い。
なにかいい方法はないものか……そうだ。
「夢の中では王子さまなんだ!」
「夢に見るほどロリコンなの⁉」
失敗!
いよいよ俺への疑念は確信へと変わった。有原はきっと、学校で俺がロリコンだと言いふらすだろう。
別に大したダメージはないか。元から話し相手はモチ太だけだし。あいつ変態だし。
「まあまあお二方。子供の前で過激な話はよくないと僕は思うのさ」
「うっ……それもそうね」
その言葉に有原は怯んで後ずさる。思えばさっきからロリコンだのなんだの。夏希がそんな言葉を覚えたらどうするつもりだ。よくやったぞモチ太。
「というわけで、これから結斗氏の家に行くのはどうだろう」
やっぱ嘘だ。こいつなんてこと言いやがる。当然のように全く関係のないことを言うな。
「ダメに決まってんだろ」
「え、モッチーもお姉ちゃんも来てくれるの⁉」
急いで否定したつもりだったが、遅かった。夏希が乗り気だ。すごく嬉しそうに来客二人を見て、俺の声は届いていないらしい。
「……確かに。いい案だと思う」
でもって、なぜか有原も来る気満々だ。
夏希がキラキラした目で見上げてくる。この表情をされて、首を横に振れる心の強さがほしい。俺には無い。
「言っとくけど、なんもないぞ」
「安心するのだ結斗氏。お菓子とジュースなら途中で買っていく。もちろん、夏希氏に選んでもらってね」
「やった!」
「……もう好きにしろよ」
つくづく、断るのが苦手だ。