前世の話 1
の少女、もとい、イリューシュカも混乱する日々ではあった。
しかし、奇跡を求め、あらゆる地域から人が集まり、傷を、病を治せと押し寄せる毎日に、そんな矛盾など考える余裕など無くなっていった。
いつの間にか孤児院は聖地と化し、その院長は、多額の寄付金を納めるよう人々に要求するようになる。
そうとは知らずに、朝から晩まで誰かの為に祈り、手をかざす日々。
自分の体力が消耗していくのを、イリューシュカは感じていた。
でも、嬉しかったのだ。
今まで疎まれてばかりだった自分が、人に必要とされることが。
その力を求める者が増え、その国が黙っているはずが無かった。
"奇跡の少女"は国の保護対象となったのだ。
抵抗する孤児院側を、国王軍は軽々と制圧し、少女を保護した。
こうして、彼女は"聖女"と呼ばれるようになった。
しかし、その国は、人々は、あまりにも病んでいた。
人々の欲が、怒りが、呪いとなり、その国は蝕まれてしまっていたのだ。
そこでイリューシュカは聖女として、その力を全て使い、祈りを捧げ、その国を浄化することに決めたのだった。
神殿には、この国を守るとされる美しい透明の水晶があった。
しかし、今はそのほとんどが禍々しい色に覆われている。
その水晶が漆黒に染まると、この地は邪気に覆われてしまうのだ。
それを元に戻すなど、いくら聖女といえど、彼女1人の力では簡単に叶うことではない。
1人残された神殿で、ひたすらに、請い願う・・・
ーーーいや、彼女は1人ではなかった。
イリューシュカの力を欲する者ばかりの中で、ただひとり、その身を案ずる青年がいた。