護衛の兵士は思わず突っ込んだ
たくさん人が居るのだから、だれかがきっと突っ込むよね? という思いから書いてみました。
ありふれている婚約破棄系の箸休めにどうぞ。
「アデーレ、君との婚約を破棄する! 男爵令嬢とはいえリリアに対するこれまでの数々の行為、許すわけには行かない!」
「何ですって!? 殿下こそ婚約者である私がいながら他の女に色目を使っていたくせに!」
ここは学園を今年卒業する子女が集まるパーティー会場。つまり卒業パーティーの会場だ。
そんな場所で大声で騒いでいるのは我が国が誇る盆暗王子ことダレス殿下と、各国に名高く我が国の騎士団を纏めるデルス公爵家のアデーレ嬢。
そして何故か、殿下の傍では男爵令嬢でしか無い少女が堂々と殿下に寄り添っていた。
王になれば側室も許されるからそこで側妃に迎えれば良いのに、と思いながら護衛の兵士は騒ぎを聞いていたのだが、どうしても気になったことがあったので思わず突っ込んでしまった。
「殿下、確認いたしたいことがございます!」
「うるさい、あとにしろ!」
護衛の声は頭に血が上った殿下に一蹴されるも、
「殿下にとって重要なことにございます!」
と言われれば、流石の殿下も耳を傾けることにした。
「わかった、だがさっさとしろよ!」
「はい! 殿下にお伺いしたいのですが、隣国の王子夫妻が我が国に訪れた際に王子妃が無礼を働いたらどのように思われるでしょうか!」
問われた殿下は一瞬考えたあと、
「当然、その国に抗議を入れるに決まっているだろう! 最低限の礼儀もわきまえていないのかとな!」
「その通りでございます! では王子妃が実は下級貴族出身だとしたらどのように思われるでしょうか!」
次の質問を間髪入れずに投げつける護衛。
殿下はやはり一瞬考えたあと、
「当然、その国に抗議を入れるに決まっているだろう! なぜ礼儀も知らない下級貴族を王家に迎え入れたのだとな!」
「その通りでございます! ではその王子夫妻が、実は国王陛下の許可無く勝手に婚姻していたとしたらどのように思われるでしょうか!」
更に質問を投げつけてくる護衛に対し、なんだこいつ?と思いつつ殿下は答えた。
「当然、その国に抗議を入れるに決まっているだろう! お前の国は王子すら管理できないのかとな!」
「全ておっしゃる通りでございます!」
そして護衛は黙り込んだ。
しばしの沈黙が会場に流れたあと、殿下は首をかしげながら護衛に尋ねた。
「今の質問に、一体何の意味があるのだ?」
その質問に対して護衛は答えようとしたが、その前に別の場所から答えが返ってきた。
「お前が抗議を入れるといった王子夫妻が、お前達のことだからだ」
「だれだ!」
声のした方に対して殿下が振り向くと、そこには顔から表情の抜けた国王夫妻が佇んでいた。
「あ、父上、母上、あ、あの、これは・・・」
「お前の言う通り、そのような王子夫妻が我が国に来たら、私も抗議を入れる。お前の答えは正しい。さて、そのような王子夫妻が我が国に居たら、私はどのようにしたら良いのかな?」
感情の無い国王の問に対し、殿下は何も答えられなかった。
静寂が続くのか、王が続けるのか、皆がそのように思い始めた時、
「私でしたら、見せしめとしてそのような王子は廃嫡してしまいますわ」
今まで黙って様子を見ていたアデーレが割って入ってきた。
その顔には怒りでは無く、汚物を見るかのような表情が現れていた。
「そうだな、アデーレ嬢の言う通りだ。私もそうすべきだと思うな」
「父上!?」
殿下は泣きそうな顔で陛下の方を向くも、陛下の表情は変わることがなかった。
そして陛下はゆっくりとアデーレの方を向くと、
「このたびは迷惑をかけた。この件についてはデルス公を通じて謝罪いたそう」
と、ほんの少しだけ頭を下げながらアデーレに話しかけた。そして会場中の他の者たちを見渡すと、
「愚息が迷惑をかけた。今、新たなデザートを用意している。今はやりのルベル商会の新作だ。もうしばらく歓談してくれたまえ」
冷え切っていた会場の雰囲気が、『ルベル商会の新作』という言葉と共に一瞬で沸き立った。
今や飛ぶ鳥を落とす勢いのルベル商会。ここの目玉商品は料理、それも王宮の晩餐に出せるレベルの内容である。
本来であれば庶民どころか下級貴族ですら口にすることはできないはずの料理だが、この商会は大量生産と手順の画一化により、少量ならば何とか庶民でもお金を貯めて買える金額に押さえ込んだのだ。
上級貴族でさえ王宮の晩餐に呼ばれない限り味わえないのだから、下級貴族や平民が大半を占める会場が盛り上がるのも当然のことだった。
そして会場中が盛り上がっている中、殿下とその傍に居た男爵令嬢は秘かに会場から連行されていった。
そしてアデーレは会場へと戻り、他の令嬢達の輪へと入っていった。
数日後、ダレス殿下の無期限療養が発表された。
それと同時にダレス殿下の婚約解消及び殿下の弟のルシア殿下の婚約発表も行われた。
あとは噂として、一人の護衛の兵士が大出世したとかなんとか。
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