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私の弟

作者: 九八

 母親からことあるごとに「お兄ちゃんになるんだから我慢しなさい」って言われ続けて嫌になって家出をしたことがある。もちろん大した距離ではないが当時の私にとっては世界を救う大冒険と同じくらいの冒険をしているつもりだった。

 そんなとき、どこからともなく泣き声のようなものが聞こえてきた。なんだろうと思いながら声のする方へ行ってみると一人の男の子が座り込んで泣いていた。その男の子を見ると不思議と助けてあげたくなって、「どうして泣いているの」と聞くと男の子はこちらの顔を見て「お母さんがどこかわからなくなってしまった」といってまた泣き出してしまった。当時の自分よりも幼く見えたその男の子が泣いていると自分もなんだかやるせない気持ちになるので、「一緒に探してあげる」と言って手伝うことにした。

 そうしてしばらく男の子と一緒に男の子にお母さんを探して歩いていると段々と男の子の足が鈍ってきていることに気がついた。このままでははぐれてしまうと思った私は男の子に右手を差し出した。最初は困惑していた男の子も次第に理解したのかその手を取ってくれた。

 それからは二人手をつなぎながら歩いていた。少しだけ早く弟ができたような気持ちになっていると「お母さん!」と言って男の子が突然立ち止まった。びっくりして男の子の方へ振り向くとそこにはお母さんらしき人物どころか手を握っていたはずの男の子すらいなかった。たしかに今まで男の子がいたことは手の温もりが教えてくれるがどこを見渡しても見つからない。

 どういうことかと考えていると自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。見てみると母親だった。母親は自分が立っていることに気がつくと見たことない速さで走ってきて抱きしめた。泣きそうな声で心配したと言われると急に寂しくなって泣きたくなりごめんなさいと泣きじゃくった。

 それから母親に手を引かれながら帰路についている途中「僕、お兄ちゃんになるよ」と告げた。母親は「ありがとう」と嬉しそうに応えてくれた。

 それから数年が経ち弟と一緒に歩けるようになってその手を引く度に時々思い出す。あの不思議な少年との小さな冒険のことを。


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