ノッチに会いに行く
「やっと着いた~」
テーレの洞窟を後にして約三日、道中数多の魔物に絡まれながらも人族最大の国家モノゴロアの首都ウーランバードまでノンストップで走り抜けてきた。
獣くさい森林を抜け人々の喧噪を肌で感じる、目の前には高さ50メートルを優に超える壁がウーランバードを囲む、パリの凱旋門にも引け取らない大きさを誇るウーランバード唯一の入口ウーランバードの大門は今日も人でごった返していた。
「さて、やるか〜」
ウーランバードの大門では常に検問が引かれており俺のような身元の保証がないような奴は奴隷でもない限り入ることは許されない。
今の俺がウーランバードに入るにはこの50メートル超の壁を登りきるか、15メートルほどの厚みの壁を潜って侵入するか、はたまた壁に穴をあけて侵入するか。
正直どれも現実的ではない、とんでもなくエネルギーを使うくせにお尋ね者になるなんてごめんである。
となればやることは簡単だ、いかに干渉する範囲を狭くするか。
個人を思い道理にするなら幻術の類が一番効く、ただ検問職員たちのようにある程度の訓練を受けている者たちは一般人と違って解けた後の違和感から気づくのも少なくない、狙い目は二日酔いだアルコールが残っている状態が望ましい。中心部で検問している奴らは出世街道を邁進しているが、質より量が問われる外周で検問をしているような奴らは出世街道から外れたいわば窓際部署のような扱いを受けている奴らである。そんな奴らが真面目に仕事をこなすわけもなく二日酔いで出勤するものも日常茶飯事の彼らは俺のような不法侵入しゃのカモでしかない。
「次、こい」
「よろしく」手順道理に手を動かす、よろしくの一言で既に幻術を掛け終えている。
「・・・・・」担当している職員はうつろな目をして立ち尽くしている。
そろそろかな「・・ありがとう」ありがとうの一言で幻術を解く。
「んぁ、あぁ・・・次」
あまりにも単純な突破方法だが何事もシンプルに進めるが意外と大切なのだ、多彩なことができたとして、自分の才能に酔いしれより短簡にもせず自身の力を示ことに躍起になっている奴ほど無能なのが世の摂理というものなのだ。
「すんなり中に入れた事だし、まずはノッチんとこいくか~」
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世界で最も治安の悪い地域はどこだと言われたら、まず間違いなく名前が挙がるであろう世界トップレベルののスラム街ダーラーウィード。女が一人で歩いていたら10秒で捕まり10秒で身ぐるみをはがされ10秒で落とされるといわれている。
「うわぁ~マジで臭いなここは」圧倒的な刺激臭が鼻を刺す。
道端には呆然と立ち尽くしている人や白目向きながら気絶している人、泡吹きながらS〇Xしている人などまさに地獄絵図である。
ただ、崩壊しているスラム区域はあまり多く無い、スラムにもちゃんと社会は存在する数百メートルも進めば明らかに人の質が変わるのを明確に感じることができる、ここからがノッチの息のかかった区域なのだと。
「随分と発展してきたな」
スラム街という汚名を返上するのもそう遠くないなと言わしめるほどの成長ぶりだ。
数十年前までは世界トップレベルのスラム街と言われていたのがまるで嘘のようである。
「こんなん見せられたら、俺も鼻が高いな〜」
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スラムには似つかわしく無いほど清潔に保たれた室内、飾り気はなく机と椅子が一つづつ置かれている。そんな部屋で一人黙々と仕事をこなしている男こそ齢36にしてウーランバードのスラム街でトップにまで登り詰めた男通称“冷徹王ノッチ“その人であった。
黒服で身を固めた男が一人扉をノックする
「なんだ」
「変な服装をした男が一人、うちのシマに入って来たと連絡が入りました」
「そんな事いつもの事だろう、要件を早く言え」
「相当な手だれの様です」
「確認したのは誰だ」
「Bランクの暗殺者です」
暗殺者や冒険者にはランクと言われる制度が存在しDランクを平均として最高位をSランク最下位をFとする。BランクはというとCランク5人から10人相当と言われている。
「紫龍を呼んでおけ、直接俺が出向く」
「了解しました」
「久々に本気を出せそうだ」
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「うわぁ、これうまそぉ。早く来ねぇかなぁ、金がないと俺も動けねぇんだよなぁ」
なんてのんきなことを言っていたら、やっと動きがあった様だ、久々だな対人戦は本気を出せる相手がいなくなってからずっと魔獣を相手にしてたからな。
「とりあえず、良さげな空き地に行くか」メンバーはCが5人、B−が1人、B +が1人、Aが1人それなりに楽しめそうだな。
10㎡ほどの空き地三方向を家屋に囲まれ通り道は辛うじて人ひとりが通れる道が一本あるのみ。
「誰からくる、全員でかかってきたほうが賢明だと思うが」上を見上げて大声で呼びかける。
「お気使い感謝するよ、だが相手をするのは俺一人だ」一振りの刀を手に無表情の男が下りてくる。
あのAランク相当の実力者はノッチっだったのか、強くなったな育て親として鼻が高いよ。
「うちのシマに何しに来た」と仏頂面で話しかけてくる。
「ちょっと会いたい人がいてね」こんな威圧まで出せるようになったなんて、早く手合わせしてぇなぁ。
「お前には関係ないだろ」
「ここは俺らノクサスが仕切ってるんでな、あんたみたいな人にうろつかれるとこっちの面子に関わるんでね」そう言って刀に手をかける。
「いきなり武力行使か、丸腰の相手に対して」
「悪いなこちらも暇じゃないんでな、早急に片を付けたいんだ」言い切る間もなくノッチは戦闘態勢入った。
おぉ、いい構えだ重心は低く全身に力みもない、この数秒で集中力も限界まで高めている。それに、この型は抜刀術の派生か、初撃に全神経を注ぐ抜刀術の特性を利用し逆に初撃を撒き餌に追撃で相手をしとめる、初見でこれを止めるのは至難の業だろう、わかっていたとしても追撃に気を配っていたら今度は初撃で仕留められる戦闘中常に二択を迫られるというなかなかに意地の悪いわざだ、このピーキーさから使い手は極めて少ないが、常に生きるか死ぬかの二択を迫られる裏社会を生き抜いてきたノッチにはお似合いの剣術だな。
静寂がこの場を支配する、ノッチは気づいていたこの人には本気で挑まなければ殺される、本能が叫んでいる当の昔に限界を突破してる集中力に鞭を入れるより深い集中へと這入っていく。
次の瞬間、完全な脱力から放たれる刹那の斬撃は間違いなく相手の急所をとらえていたノッチにはそう認識することしか出来なかった、本来撒き餌の意味合いで出す初撃さえも十二分な破壊力を持った一撃であった、自分史上最も完成度の高い剣筋であることは明白であった、だからこそ認めるしかなかった自身の敗北を。
ジンはリラックスしていた、この静寂この緊張感を心地よいとさえ感じていた、コンマ0.1秒の間に繰り出された二振りの斬撃をいともたやすくいなして見せた、流れるような手さばきに一切の無駄は無かった、素手というハンデを持ちながらそこには圧倒的な力の差があった。
周りを取り囲んでいたノッチの部下たちは目の前で行われた、別次元の戦いに助太刀する気さえ起きなかった、Aランク到達も時間の問題だと言われていた紫龍は自分とノッチとの間にあまりにも高い壁があること知った、自分の無力さを悔いた。
戦いは一瞬であったがとてつもなく濃厚であった。
「俺の負けだ、俺のことをどうしてもらっても構わない煮るなり焼くなり好きにしてくれ。だが、どうか、部下たちだけは見逃してやってはくれないだろうか」
どこまでも気持ちのいい男である、本当にこいつを使徒に選んでよかった。
「いや、そんなことは望んでいない。そういえば、自己紹介がまだだったな。俺の名前はジン、クロサキジンだここへ来た理由はノッチお前に会うためだ」
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