アランに会いに行く
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最初に現れたのはサイクロプス、素早さこそないがその巨体から放たれる一撃は容易に岩を砕くと言われている。
臨戦態勢をとる二人、魔物相手ということもあり何のためらいもなく本気で殺しにかかる。
『血液凝固:ブラッティサイズ』
『強化魔法:ビルドアップ』
嬉々として魔物たちに切りかかる、自分の背丈程ある鎌を自身を軸にして遠心力の要領で高速で振り回す、ガードの体制をとるサイクロプスに下から掬い上げるようにして腹部に刃をえぐりこませる。
「ふんっ」
「グアアァァ」
自分よりも何倍も小さい人間に傷つけられたことに怒り振り上げた拳を餅つきのように振り下ろす。
「スイッチ」
ブラッティチェーンをフゥの所まで伸ばし同時に引っ張ることでブラッドとフゥの位置をすり替える、サイクロプスは標的が変わったことは気にも留めずそのまま拳を振り下ろしてくる。
「うらあぁぁあ」
迫りくる巨大な拳を真正面から迎え撃つ、しっかりと地面を掴んだ高火力アッパー肉と肉がぶつかる鈍い音が響き渡る。
━━バギン
その華奢な体から出たとは思えない高火力、予想外の出来事に対処しきれずにサイクロプスの巨体がひっくり返る、いつの間にか後ろに回っていたブラッドが急所である後頭部に鎌を突き立てる。
「ガアアァアア」
雄叫びを上げながら絶命する。力自慢のサイクロプスに対して更に強大な力でねじ伏せるという何ともフゥらしい戦闘スタイルとすべてをカバーする技巧派のブラッド、よく連携の取れた戦いだ。
「素晴らしいですね」
Aランクの魔物を10秒そこらで狩る二人を見て驚きの声を漏らす。
「準備運動はそれぐらいでいいだろ」
「えっ今の準備運動なのですか!?」
「二人で一匹を相手にするのが準備運動でなきゃ低層での狩りはままならないからな」
「そうなのですか」
「あぁ、通常3~4体の魔物がグループを作って行動している二人で狩りをするなら一人二匹を相手にしなければならない、それにAランクともなれば連携をとって襲ってくる奴もいるからな、しっかりと連携が取れた状態で約10秒まあまあ及第点ってとこだろ」
レイラはこの一連の流れを見て使徒のレベルの高さを改めて再認識した。
「今日の調子はどうだ」
「それなりですね」
「まぁまぁ」
「そうか、それじゃあ今日の所は60階層で折り返して帰宅するぐらいが丁度いいか」
「賛成です」
「い~よ~」
「それじゃあ怪我しそうになったらサポートに入るが基本的に後ろで見守ってるから好きに攻略していいぞ」
「よし、じゃあいこ~ブラッド」
「いこ~」
その後も順調に狩りを進めていき宿に帰るころにはとっくに日は落ちていた。
いい具合に体も動かし久々に何かおいしいものを食べたい気分だ、不思議なもので本来ある筈のない食欲もうまいものがあるとわかっていると湧いてくる。ただし、誤解のないように言っておくが決してターコイズ邸で出てきた食事がまずかったわけではないむしろとてもおいしかった、しかし、上には上がいるということを俺は知ってしまっている俺にとってどこか物足りなさを感じざるを得なかった。
「ということでアランの所に飯を食いに行きます」
「何がということでなのかわかりません、ご主人様」
「アランの料理が食べられるんですか!?」
「ご飯食べに行くの?」
アブダクトの高級住宅街、アブダクトなのにある程度の治安の良さが担保されているという珍しい地域。そんな地価のクソ高い場所に店を構える一流料理人『鉄人アラン・デュカス』、世界でも五本の指には必ず入ると言われるほど腕の立つ料理人である彼の店は数年先まで予約が埋まっているとさえ言われている。
「本当に入れるんですか?」アランの店の入りにくさを知っているフゥから疑心の声が出る。
「一応光電書鳩飛ばしといたから大丈夫だと思うけど」
「そんなことのために光電書鳩使ったんですか」
「ターコイズに聞いたところでは魔界の魔物だって言ってましたけど」
「おれのもんだからな好きに使っていいだろ」
「はぁ」
何のためらいもなく店に入っていくジン、それを追いかけるように三人とも店に入っていく。完全個室の店内は入店者に最大限の配慮がなされている。
「予約していたジンです」
アランに直接アポを取っただけで店には何も連絡を取っていないくせに堂々と予約していたと言い張る。
「ジン様ですね、それではご案内いたします」
「え・・、本当にイケてるじゃあないですか」
「ほらな、意外といけるだろ」
「ご主人様なら当然ですよ」
「ジン様すご~い」
「そんなに簡単に融通の利く場所じゃあないんですけどね、聞いた話じゃあ王族すらも特別対応を拒否したって話なんですけどね」
最奥の個室へ通され「少々お待ちください」と言われたのでのんきに座って待っていたところ一人の男が入ってきた、入って来て早々深々とお辞儀をする男。
「ジン様ようこそおいで下さいました、これでやっと夢を叶えることができます」
「ようアラン、急な来店に対応してくれてありがとう無理言って席を開けてくれてありがとう」
「いえいえご心配なく、この個室はジン様がいつご来店になっても対応できるように常に開けている部屋ですのでジン様に限っては予約して頂かなくても大丈夫ですので気軽によってください」
「本当か!!!じゃあこっちにいる間はいっぱい来させてもらうわ」
「大歓迎です、ジン様に自分の料理を振舞うことができるなんてこれ以上ない幸福ですから」
「ありがとう」
「では、私は料理を作ってきますのでゆっくり寛いで待っていてください」
「ご主人様は本当に愛されているのですね」アランの対応を見てレイラがしみじみとした感じで言う。
「みんな俺のことを慕ってくれて嬉しい限りだよ」
食事が終わるころには美味しさのあまり笑みが止まらなくなっていた、胃が満たされるだけでなく体も心も満たされる最高の食事だった。
「まじで幸せだ~」
「本当に美味しかったですね」
「美味すぎた~」
「んふ~~」
幸せの余韻に浸っていると今日分の料理を作り終えたアランが個室に入ってきた。
「ご満足いただけましたか?」
「最高だったよ、食事でこんな幸福感を味わったのは初めてだよ」
「身に余る光栄です、今までお世話になったジン様への労いの気持ちも込めて作ったのでそこまで満足していただけて大変嬉しく思います、ジン様も長い間お疲れさまでした」
「ありがとう、最高の労いだったよ」
宿に帰った後もその幸福感を感じたまま眠りについた、非常に充実した一日だった。
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