グッチに会いに行く
俺は今、ターコイズに用意してもらった酒を片手にウーランバードの職人街に来ていた。
「ここは騒がしいなまじで」
職人たちの雄たけびや機械の騒音、原因不明の爆発音などとにかく騒がしい。こんなところにずっといたら頭がおかしくなるというほどだった。
なぜそんなやかましいところに来たかというと、ダンジョンで効率よく狩りをするための武器をある使徒に作ってもらいに来たのだ。
その男の名は、グッチ世界最高峰の腕を持つドワーフ族の鍛冶師である。
とてつもなく頑固で有名な彼はどんなに名の通った冒険者であっても自分が気に入らなければ作らないし、どんなに値を上げられても首を縦に振らないことで有名であった。そして、それと同じ位酒豪として有名な彼は収入の8割を酒に使うほどの酒好きでもある。そのため、ターコイズにお願いをしてお酒を用意してもらったのだ。
「ターコの言ってた通りだとここにいるはずなんだが」
職人街で最も目立つ酒屋から、7店舗目の横の路地裏を入って一見石壁のように見えるの下から8段目左から3つ目の石を押すと回転扉のように中に入れる。
「おぉ、本当に入れた」
そこからさらに奥に言えば、妙な空間がありそこにグッチの鍛冶屋はある。まさに一見さんを最大限入れさせないようになっている作り、よほど腕の立つものでなければこんなところに店を構えることはできないだろう。
「本当にあったよ、マジかよ」
店のいでたちはいたって簡素で飾り気の一つもない、職人街とは思えないほど静かで金属をたたく音が一つ聞こえるだけだ、十中八九この音の主がグッチだろう。
「ガチャ」
ドアを開けて中に入る、案の定グッチが作業をしていた。いらっしゃいませなんて言葉はない、ただひたすらに金属をたたく音が響くだけの時間が過ぎる。
暫くすると音が止み、作業をやめてこちらに向かってくる。
「久しぶりだ、こんなまともな客が来たのは。あんた、名前は」不愛想に対応する。
「ジンだ」そっちが試すならこっちも試させてもらうぞ。
「・・・あぁ、そういうことか」なあんだと言って様子である。
これだから年寄り共は、話が早くて助かる。
「どこか座れる場所はあるか」と問いかけると。
「奥にある」と淡白な返事をする。
奥にある丸太から削り取ったみたいな椅子と切り株そのまんまのテーブルに腰を掛ける。
「それで、ジン様がわざわざ出向くなんて、何があったんだ」
「実は、この世界の神という座から退くことになった、それに応じて俺発信で始めた使徒制度も解体することにした」何回しても慣れないものだな。
「そうか」驚く雰囲気はなく至って平然としている。
「驚かないのか?」これまでの奴らとの反応の違いに思はず反応してしまう。
「いや、驚きはするが。ジン様の顔に不安が見えなかったんでな、悪いことは起きないだろと思ってな」
嬉しいことを言ってくれじゃあないかこのおやじは。
「それで、まだ何かあるんだろ。仕事の依頼か?」付き合いが長いと何でもかんでもわかってしまうらしい。
「刀を一振り作ってほしい、値段はそっちの言い値でいいこれは前金として受け取ってくれ」そう言ってターコイズに用意してもらったお酒を出す。
「おいおい!!、これはマッカランの64じゃねーか」
こいつ、俺が神をやめた報告よりいい反応するじゃあねぇか。
「お前、俺の報告の時もその反応しろよ」と半ギレで言う。
「ごめんごめん酒には目がないもんで、その代わりと言っちゃあなんだが代金はいらないこの酒で十分だ」そう言いながらも酒から目を離さない。
「それなりの値段はしたが、お前の作った武具の方が値は張るだろ」
「わかっちゃいねぇなジン様は、こんな酒がそうやすやすと手に入るわけないだろターコイズですら数本しか持っていないと思うぞ、この酒には値段以上の価値があるんだよ」と自慢げに話す。
「なんでもいいが、作ってくれるのなら良かった、納期はいつぐらいになる」
「何だ急いでいるのか」
「なんでわかった」
「でなきゃ俺に納期を聞いてくる奴なんていねぇよ。明日また来い、それまでに仕上げておく」
「そんなに早くできるのか」グッチへの依頼はこんな辺鄙な所にあるにも関わらず数年先まで予約で埋まっている。
「俺を誰だと思ってんだ、ジン様のために特別だがな」
なんだかんだ言って、ちゃんと俺のことを慕ってくれているんだな、この頑固おやじめ。
「助かる、じゃあまた近いうちに酒を持ってくるわ」
「あぁ、気長に待ってるよ」そう言うとまた作業に戻っていった。
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「ただいま」
扉を開ければすぐにターコイズがハグで出迎えてくれる。
「どうでした、交渉はうまくいきましたか」上目遣いで聞いてくる。
「あぁ、うまくいったよ。明日までに仕上げてくれるらしい、代金についてもあの酒で十分だそうだ」
「えぇ!!!!、そんな破格の待遇を、あのグッチが。あんな感じのくせにちゃんとジン様のことが好きなんですね」
「慕ってくれているようで、俺もうれしいよ」
この夜もターコイズの嬌声は一晩中なり続いた。
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