ターコイズのお願いを叶える2
グユク王と相対するジンは相変わらず平常運転で、テーブルの上にあったチキンを食べていた。
「なぜ、チキンを食べているんだ君は」とジンを睨みつける。
「そらまぁ、あんたが歩くの遅いからじゃあないか、こんなに待たされたらそらチキンの一つも食いたくなるって」と引き続き食べ続ける。
「君は誰だね」あくまで上から目線で話すグユク。
「名前を聞くならまず自分から名乗るのが筋ってもんじゃあないのか」そう言いながらいまだにチキンをほおばり続けている。
額に血管を浮き上がらせながら答える「私の名前はグユク・モノゴロアだ、君は?」
「名乗る義理はないね」とチキンを置いて睨み返す。
明らかに挑発的な態度をとるジンを見てターコイズは気づいてしまった、あの温厚なジンが切れているという事実に。普段温厚だからこそ、その反動はでかい。普段から使徒たちのことを家族のように大切に思っているジンにとって使徒に害をなすことは家族に害をなすことに等しい、誰だってそうだろう大切な家族のためなら本気で怒れる。
「君のような愚か者を見るのは初めてだよ」と罵倒するグユクの手は怒りで震えていた。
「おぉ、奇遇だな俺も初めてだ、こんな無能な王に会ったのは、ガキ一人満足に育てられない癖に一国の王とか冗談も休み休み言ってくれよ片腹痛いぞ」
怒りながらも冷静に言葉を返すジンとは対照的にグユクは我を忘れてブち切れていた。
「不敬である、こいつを打ち首にしろ」グユクの号令で警護をしていた近衛兵たちがジンに刃を向ける。
「誰に向かって口きいてんだ愚図が」大声とともに放たれた威圧はまるで龍に睨まれているようだった、近衛兵たちは恐怖のあまり足は止まり心身が震えだす自分の本能が逃げろと騒ぎ立てるのを抑え込むので精一杯だった、近くにいたピークは余波だけで尻もちをついてしょんべんを漏らしていた。
威圧をもろにくらったグユクは辛うじて震える足を抑え立っているのがやっとだった。
「こんなのをカンが見たらがっかりするだろうな」とあきれた表情をする。
「カンとはあのカン様のことか」急に取り乱し始めるグユク。
モノゴロアにおいてカンという名前は大きな意味を持つ、初代国王カン・モノゴロア一代にしてこの大国を築き上げた天才、英雄と称される彼の名はモノゴロアの国民にとって敬愛する対象なのである。
「そういえば、名前がまだだったな。俺の名前はクロサキジンこの国モノゴロア唯一のS級客人だ」
モノゴロアの歴史において最も位が高いとされているのが、初代国王カン・モノゴロア次点でS級客人の俺が来る、その次にやっと現王が来るといった構造になっており。上二人は実質名誉階級といった扱いなのだが、想定外に俺が生きていたため現国王といえども反論することはできないのである。
「ジン様が今ここに、お伽噺の世界の人じゃないのか」1000年も生きることのできる人間はいないため、どうせ先代の妄言とでも思ったのだろう。
モノゴロアの国民であればだれもが一度は見たことのある絵本モノゴロア建国記、モノゴロアの英雄と称されるカン・モノゴロアの生涯が記されている絵本。
その絵本の登場人物にクロサキジンという人物がいる、カンの実質的な育ての親でありカンの才能を開花させた張本人、カンが成人した際には一振りの剣を渡し姿を消したとされている。
「嘘だろ、ジン様は生きていたのか」周りの人間は今まさに伝説を見ている気分だろう。
「まぁ、急にこんなことを言われて信じるのもむずかしいだろうからな。ひとつ、いいものを見せてやろう。今日この場にいる人はラッキーだな俺を連れてきたターコイズに感謝した方がいいぞ」
『神器限定解除:フラガラッハ』
何もない空間からいきなり出現したその剣を見た途端その場にいる全員の表情が変わった。絵本で描かれている通りの翡翠色の刀身、そしてその、圧倒的な存在感に誰も偽物だと疑わなかった。
この剣から放たれる斬撃は鎧をも砕き、どんな鎖も両断する、フラガラッハ自身が生きているかのように持ち主の敵を攻撃する、何があろうと死ぬまで持ち主から離れることはない非常に従順な剣といわれている。
「本当に存在したのか」お伽噺の中の物だと思っていたものが目の前に現れたことに誰もが子供のようにに歓喜していた。
「そりゃ存在するだろ、何てったってこの剣の製作者は俺だからな」
「「「「え``~~~~~~~~」」」」
二重の驚きにターコイズでさえも放心状態になっていた。
「これで俺が本物だって分かっただろ。じゃ、まぁ、今回の件に関しては後日色々話すことにするか。ターコイズ今日はもう帰るぞ」
今度は俺が腕を引き行きに乗ってきた馬車へと帰る。
「これでもう、あいつは言い寄ってこれないだろ」少しやりすぎな気もしないでもないが、俺の使徒に手を出そうとした罰だ、このぐらい軽いと思ってほしい。
「もう、やりすぎですよ」と無邪気に笑うターコイズ。
あぁこの笑顔を守りたい。
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