0 プロローグ
「我が孫、エルトゥラよ。お主の両親とのお主を一人前にするという約束、今ここに果たされた」
「爺ちゃん、あぁ、ありがとう。でも、俺、爺ちゃんに何にも返せてねぇや。魔法の知識も、常識も何もかも爺ちゃんに教わったのに」
「ふむ、それならの、お主を育てることに使った18年間、そのうちにしたかった旅をわしの代わりにして来なさい。そしていつかわしに旅で起こった出来事を教えておくれ。あ、10年以内には戻ってくるんじゃぞ?わしももう歳じゃからな」
「んなこと言って、昨日も森で狩りしてたじゃん。でも、まぁ、そうするよ。いろんなところ行って、いろんなものを見てくる」
「それで良い。今夜は宴じゃ。わし秘蔵の美酒を出してこようかの。お主は料理を出しておれ」
「わかった」
俺の18の誕生日、爺ちゃんに一人前の魔導士だと認められた日。死んだ父さんと母さんが爺ちゃんに俺を託してから18年。爺ちゃんには感謝しかないや。あ、爺ちゃんが戻って来た。料理を並べないと。
「ほれ、わしがまだ若い頃に龍殺しの褒章でもらった物じゃ。今日は記念日じゃからのぉ。少し贅沢をしてもいいじゃろう」
そう言って高そうなお酒を2つのグラスへと注いで、一方を差し出して来た。俺はそれを受け取り、乾杯する。
「エル、わしが教えた中で一番重要なことはなんじゃ?」
「魔法とは何か、だろ?」
「そうじゃ、言うてみぃ」
「魔法とは言葉。理不尽に打ち勝つために力ある言葉で世界を変える法。それを人は魔法と呼ぶ」
この言葉は爺ちゃんが俺に初めて教えてくれた言葉だ。毎日毎日言われ続けていた間にか覚えていた。爺ちゃんは、その言葉を聞き満足したのか、軽くうなづきながら言葉を続けた。
「そうじゃ。じゃが、森の外の魔法はその根幹を忘れ、何かを傷つけるための技術となっているものもある。わしが教えた《真の魔法》は滅多なことがない限り使わん方がいい。目立つと碌なことがない」
「爺ちゃんがそう言うなら…」
「少し、説教のようになってしまったわい。ほら、飲め。お主のための宴じゃ」
「爺ちゃん、俺、爺ちゃんが驚くような旅をしてくるよ。必ず、帰ってくるから。」
そう力強く答えると、爺ちゃんは驚いたようにこちらを見てくる。
「全く、ちょっと前までは小僧じゃったのにのぉ。時が経つのは早いの」
「爺ちゃんのおかげだよ。ここまで育ててくれたのは爺ちゃんだから」
「言うようになったのぉ」
その後も、森の奥の小さな小屋での、俺と爺ちゃんの2人だけの宴は続き、2人ともが酔って寝てしまうまで大騒ぎしたのだった。
1 旅立ち 2023/3/12-12:00(予定)