狙われている伊神
伊神 打万歳 16歳、通っているのは脚境学園で父親は他界しており今は、母親と2人ぐらし。そして、世界最強と呼ばれた殺し人。
そして、私に課せられた任務のターゲットで私が殺さなければならない人物。
彼は、今まで数えきれない人を殺しており、
元々は政府お抱えの優秀な暗殺者であった。
政府の任務に1つの失敗もなく淡々とこなす様は私達の憧れだった。しかし、ある日を境に彼は民間人を殺すようになる。見境なく殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。
そして、遂に私に政府から暗殺命令が出たわけだ。
彼は木刀を武器としており、木刀だけで人を殺せるほど重く強く速い一撃を繰り出すらしい。強い相手には、木刀を割り中から真剣を取り出して戦うらしい。
彼は化け物だ。正直真正面からいって敵う相手ではないだろう。だが、彼も人間である。
人間である以上隙を見せる時はあるし油断してる時だってある。
その時に、静かに死角から狙えば彼だって誰だって反応出来ないだろう。
そんなわけで私は彼についてここ1ヶ月とにかく調べた。
・1番リラックスして気を抜いているのは?
(寝てる時が一番無防備だった)
・毒は効きそう?
(これに関しては、彼がカレーを食べる際にジャガイモの芽を投入しておいたが効果はなかった為、毒は弱いもの効かないのかも)
・好きなゲームは?
(スプライトトォーンを1番やっていた。気が合いそう)
等々と必要と思うものから必要じゃないと思うものまで全て調べた。情報は多いに越したことはないのだ。
気掛かりな点は、彼が殺しをしていない点だ。調べた1ヶ月間では殺しをしてる様子が一切なかった。どういうことなんだろう?
まぁ、これに関しては深く考えない方がいいだろう。最近は控えているだけかもしれないし、第1格上の相手を暗殺するのに余計な事を考えていたんじゃ、いざという時に命取りになるからだ。
決行日は今日なのだから、余計な事を考えずに感覚を研ぎ澄ませないと。私は、彼がいつも通り学校に向かう様を見ながらそんなことを考えていた。
*
「おはよう。朝は相変わらず死んだ顔をしてるね」
「おはよう。朝がうざいのは今日も変わらないようだな」
俺がいつも通り家を出るといつのように、
夏川 美夜が皮肉めいた挨拶をしてくる。美夜は、元気でショートカットで美しい黒髪と一部の男子にクリティカルヒットらしく校内に好意を抱いているものも少なくないらしいが、
「あ、伊神が死んだ顔なのは朝だけじゃなくていつもだったね。ごめん」
「あ、美夜がうざいのは朝だけじゃなくて常時だったね。ごめん」
「あぁ、何だとぉ?」
「やんのかぁ?」
とこんな感じの関係で、幼馴染ではあるし
家が隣ではあるし、学校も同じではあるし、
クラスも同じではあるし、更に言ってしまえば席まで隣なので羨ましがられるが、
腐れ縁もしくは犬猿の仲と言う方が正しい関係だ。
でも、何故か毎日いっしょに登校するのだからお互いにお互いがどんな関係なのか、よく分からない。まさに、ミステリー。
いつものように、美夜といがみ合いながら歩いて駅に着くと駅ではいつものようにあの男が待っていた。
「おう、伊神に美夜。また、夫婦揃って登校とはお熱いねぇ。倦怠期というのないの______ぶべら」
今、俺と美夜に殴られたのが桐原 大地。
彼は、他人です。
「他人じゃねぇよ!? 友達だろ!?」
心の中が読めるタイプの他人だったか…。
「心の中が読めるタイプの他人って何!?
友達だろ?」
「俺はお前なんて知らんぞ? 警察の方ぁ、
ここに不審者がいまーす」
俺が声を張り上げる。
「もはや、不審者扱い!? 美夜、こいつを止めてくれ」
「な、何で私の名前を知ってるの!? 会ったことないのに、まさかストーカ!?
お巡りさーん、ここにストーカがいまーす。
捕まえちゃってくださーい」
美夜も周りに呼びかける。
「お前もかぁぁぁぁ。普通に会ってるし友達だから知ってるに決まってるだろ」
叫ぶ大地。周りの人々はいつもの光景なのでさほど驚かない。むしろ、迷惑なことに俺と美夜を夫婦と呼ぶ人も多い。大地のせいで駅の人々が嘘の情報を信じきってしまっている。
しょうがない、桐原 大地彼は一応友達です。
「一応ってなに!? どういう関係なんだよ!?」
「正確に言うと、お前は昼放課に俺の為に購買に走り、俺はお前が買ってきたパンを食うという関係だな」
「俺それ、パシらてんじゃん! 美夜、本当のことを言ってくれ」
「大地は私と伊神と来栖にお金を貢ぐことを生きがいとする生物です」
「俺にありもしない生きがいを植え付けんなぁぁぁ。くっそ、夫婦して俺にボケを振ってきやがって、やるなら夫婦漫才でもしてろってんだ______ぶべら」
大地は再び俺と美夜に殴られて倒れてしまう。禁句を言うのが悪い。
「あのなぁ、大地何度言ったが分かんないが俺と美夜はそんな関係じゃねえわ。
どちらかといえば犬猿の仲が正しい」
「そうよ、大地。私と伊神は腐れ縁もしくはくさい縁というのが正しい」
俺達が大地に説得にかかるが大地は納得がいかないようで、再び立ち上がると文句を言ってくる。
「犬猿の仲が毎日、男女で、2人で、密室で、
遊びを、するわけないだろぉぉぉ」
「「うっ!!」」
これに関しては俺と美夜は強く出られない。
俺と美夜は仲は良くないし、お互いにいがみ合っているのだが、毎日どちらかの家行って
ゲームを2時間程して遊ぶのだ。
犬猿の仲のはずなのに、何故か遊んでしまう。理由は俺達にも分からないのだから、
まさに、
「「ミステリー」」
「ミステリーじゃねぇよ!? ミステリーすぎるわ! これで夫婦どころか付き合ってない方が前代未聞だわ! ってか、普通に夫婦______ぶべら」
大地、懲りない奴だ。何度奴は俺達に殴られれば気がすむのだろう。
「夫婦は禁句だ。二度というな」と俺。
「次、夫婦って言ったら…どうなっても知らないよ? 駅前、私と伊神への悪口、電車、
当然無事ですむはずもなく…」
「俺殺されんのかよ!?」
すぐ立ち上がってツッコミを入れる大地。
相変わらず復活だけは早いな。
「大体さぁ、伊神普通にモテるわけじゃん?」
「いや、伊神がモテるわけないじゃん。脳みそないの?」
「確かにモテないけど、美夜に言われるとカチンとくるな」
事実だからしょうがないが、
「いやいやいやいや、モテないわけねーじゃん。運動神経抜群だし、勉強出来るし、俺と美夜以外には優しいし、顔はシャクだけどモテ顔だし。でもさぁ、告白されないわけじゃん?」
何が言いたいんだろうか?
「告白されてない時点でモテてないだろ?」
「だぁー、そういうことじゃないだよ!」
大地が頭をかきむしる何が言いたいんだ?
「美夜だってモテるだろ?」
今度は、美夜に話を振る大地。美夜は確かにモテるがムカつくので否定しておくか。
「いや、美夜にどこにモテる要素があるんだ?」
「伊神に言われるとムカつくけどその通り」
「いやいやいやいや、そんなわけねーじゃん。運動はそこそこだけど、勉強は学年1位だし、性格は俺と伊神以外に対しては温厚で優しいし、顔も普通に美人だし。でも、告白はされないわけじゃん?」
「だがら、何が言いたいわけ?」
美夜も分からない様子だ。俺も大地が何を言いたいのか全くわからない。
「あのさぁ、2人にもし好きな人がいると仮定してさぁ」
「「いないけど」」
「仮定だっつってんだろ! 話聞けってこの仲良し夫婦」
ブォン さすがにかわされたか。やるな大地。
「無言で2人してパンチを繰り出しくるのは毎回のことながら恐怖を覚えるがそれは置いておくとして。その好きな相手に幼馴染がいて、そいつがモテる奴で、毎日お互いの家に行きあう程仲が良くて、毎日いっしょに登校してる奴がいたらどうするよ?」
「脈なしだろ? それ完全にそいつとそいつの幼馴染相思相愛じゃん」
「諦めるが吉ね。勝ち目ないもん」
「つまり、そういうことなんだよ」
「「どういうことだよ!?」」
意味不明だった。どういう理論なんだよ、それ。
「いや、お前らに今ツッコミする権利ないから、見てる人達からすればお前達にツッコミを入れたいと思ってるから。
つまりだな、今のお前らが言った相思相愛の幼馴染とその人はお前らがモデルなの!
周りの奴らからしたらお前らがそう言う風に見えてんの! ってか実際そうだろ!」
はぁはぁと息を切らしながら言い切ったと言わんばかりの大地。
「これで、分かってくれたろ? お前達は相思相愛の幼馴染です」
「「いや、そうはならんだろ」」
俺達が冷静なツッコミをいれる。
「こいつら、めんどくさすぎる!」
確かに、幼馴染で毎日いっしょ登校して毎日遊んでいたら恋人にしか見えないが俺と美夜は例外なのだ。
「あっ伊神、電車来たよ。大地押す準備して」
「もう、出来てるよ」
「さっきの計画実行しようしないで!? お前ら、息ぴったりすぎるだろ!? やっぱりどう考えてもふう______」
「「大地、逝けぇぇぇぇぇ」」
「冗談だから許してくれ!」
と俺はいつも通りの朝を送っていた。
*
私は今日も何を見せられているんだろう。
たまに、伊神 打万歳を見張っているとすごい馬鹿みたいな気分になるのだが、これは気にしない方がいいだろうと。今日で、終わりだし。伊神殺して終わりだし。
私も、見ているとついつい「いや、お前ら確実に夫婦だろ!」とツッコミしたくなるが、
それも伊神の作戦かも知れないし。
とにかく焦るな。実行は今日の夕方。
私はイラつく鼓動を落ち着かせて伊神暗殺のイメージトレーニングを繰り返していた。