感情 悲しみ
彼女はいつも悲しんでいた。
なぜなら、悲しんでいれば多くの人が親切にしてくれるからだ。
なぜなら、悲しんでいれば多くの人が幸せにしてくれようとするからだ。
だから彼女は幸せにならなくてもいいと思っていた。
幸せにしてくれようとさえ、してくれれば。
それで彼女は満足だった。
そのため、事あるごとに涙を流し、嘆いていた。
そんな女性は転々と各地をさすらっていた。だから、人々がおかしいと気づく事はなかった。
けれど、そんな彼女に一目ぼれした男性がいた。
彼女の演技を見抜けなかった彼は、いつも彼女を幸せにしようと、頑張った。
喜ぶ物を手に入れようと頑張った。
楽しめる者を作ってあげようと頑張った。
綺麗な物を見せようと頑張った。
しかし、頑張りすぎた彼は過労で突然死してしまった。
彼女はいつものように悲しんだけれど、見ている人がいなくなってもなかなか涙も嘆きも止まらなかった。