◇恋を知った私はあなたの幸せを願い眠りにつく◆
最終話です。
リーン…
ゴーン…
今日も変わらず鐘が鳴る。
それは何を告げる鐘だろうか。
幸福か。
悲劇か。
祝福を知らせ、惨劇を呼ぶ鐘が響く。
リーン…ゴーン…
高く高く、悲しい音色が響きーー別れを告げる鐘が鳴る。
◇◆◇
空を見上げれば嫌味なくらい澄んだ青空が拡がっていた。
今日、ルーアの葬儀が行われた。
沢山の花に、沢山の人に囲まれて。
棺の中、穏やかに微笑みを浮かべて眠る彼女はまるで出会った時のようだと思った。
あの時も、雪に埋もれて死んだように彼女は眠っていた。
だから、今回も目を覚まさないものかと期待したが…
奇跡は二度も起こることはなく彼女は土へと還っていった。
その様子を、私はただ呆然と眺めていた。
◇◆
サワサワと穏やかな風が吹き、花が散る。
季節が巡り、君のいない時を過ごす。
◇◆◇
彼女の墓の前でボンヤリと空を見上げていた。
あの日同じ、澄んだ色の空が彼女は好きだったと思いだす。
何故好きだったのか、もう思い出せない。
彼女とすごした日々が段々と色褪せ消えていってしまうことが酷く悲しく恐ろしかった。
いっその事全て忘れてしまえたらどんなに良かったか…
しかし、鳥が自由に羽ばたく空を見る度に私の天使は結局、空に帰ることもできず死んでしまったのだと思い出させる。
彼女との思い出はどんどん消えていくのに…
そんな事実だけはどうしても消えてくれないのだからなんて理不尽で意地悪な世界か。
こんな世界を、彼女はどう思っていたのだろう?
ふと…そういえば昔、彼女は私を始めてみた時に私の事を天使だと思ったと言っていたことを思い出す。
雪の中で死んだと思ったあの時、ボンヤリと見えた綺麗な金の髪に春の空と同じ澄んだ青い瞳。優しく微笑むその姿が死を待ち構える自分を迎えに来てくれた天使に見えたと。
私の方こそあの時微笑んだ彼女が天使に見えて仕方がなかったというのに…。互いに互いが天使に見えていたなんておかしな事だと笑ったのだった。
ふっと、ルーアが死んでから初めての笑みが毀れた。
ルーア…私の天使。
君がいないと酷く世界が色あせて見えるよ。
君の笑顔は何時でも私の心を温め癒してくれたというのに。
今は…酷く寒く感じるのは何故だろう。
そんな私を、あの日妻となったかつての婚約者は何も言わず何も聞くこともせずただただ寄り添い傍に居てくれる事が少しばかりの救いとなっていた。
妻は、気付いていたのだろうか?
私が愛していたのがルーアだということに…。
いや、相手が誰であろうと私が誰かを愛していたということに気付いてたのなら何故今も何も聞かず何も言わずに傍に居てくれるのだろう?
こんな不誠実な私の傍に何故…?
妻は、ただ微笑むだけで何も言わない。
だから私もあえて何も聞かずに過ごした。
それはただ逃げていただけなのかもしれない。
それでも何も言わず傍にいる妻に私は勝手に救われていった。
妻のことは好きだ。
それこそ小さな頃から知っている幼馴染であったし、婚約者としてそばにいた時も長い。けれど、不思議と恋をすることは無かった。
恋をする前に、家族として受け入れてしまったからか。
今も、この先も…ルーアがいなくなりどんなに時が経っても。
私の心の中心には妻ではなくルーアがいる。
私は死ぬまで妻を本当の意味で愛することは無いのだろう。
妻には申し訳ないと思う。
こんな私と生涯を共にしなければならないのだから。
けれど、これは初めから決められたことだった。
初めから、変えることの出来ないものだった…だから、結局ルーアが生きていたとしても私の傍にはルーアはいなかっただろう。
貴族としての私は家を守る為に、平民でメイドのルーアと本当の意味で共にいることは出来ない。その事が分かっていたから、私はルーアにこの気持ちを伝えることは無かった。いや、伝えることが出来なかった。
こんな不誠実で我儘な私の事を彼女はどう思うだろう?
妻はどう思っていたのだろう?
それを知る術はもうない。
彼女はこの世にはいないのだから…
結局、初めから私は逃げていたのだろう。
愛おしいと感じていた彼女からも、この気持ちからも…。
私は…臆病で、卑怯者だっただけなのだろう。
…これは私の我儘だ。
優柔不断で最低な、私の独りよがりな勝手な願いだ。
もし、それでも…それでも願いが叶うならば共に生きたかった。
この気持ちを伝えて、彼女を愛したかった。
彼女から、正面から愛されたかった。
それが出来ないならば…ただ、そばにいて欲しかった。
ただ…生きていて欲しかった。
私の手の届く所で、私にあの瞳を向け続けていて欲しかった。
いつか、彼女を幸せにする相手が現れるその瞬間まで、恋焦がれるあの瞳を私だけに向け続けて欲しかった。
私の自己満足でしかない傲慢なこの望みは誰にも知られること無くいつかは塵と消えるのだろう。
ルーア…私の唯一。
私はこの気持ちを捨てきれることは無い。
けれど、蓋をすることは出来るだろう。
厳重に蓋をして、私の心の奥底にしまいこんでしまおう。
ルーア。
一時でも、私を愛してくれてありがとう。
私に恋をしてくれてありがとう。
君のお陰で、私は幸せだったよ。
ねぇ、君は…どうだったろうか?
最後「ありがとう」と呟き笑顔で眠った君は…
幸せだっただろうか?
幸せだったらいい。
私が幸せであったように、眠りに落ちた先でも君が幸せであればいい。
墓に花を添えて立ち上がる。
隣には頬笑みを浮かべる妻と、その腕に抱かれた小さな小さな子どもの姿。
私の家族。
私が守らなくてはいけない大切な…。
これからもきっと私は長い長い時を君のいない世界で過ごすだろう。
傍に君は居ないけれど…私は君を忘れない。
けれど…そうだ。最後にこれだけ、聞いてくれるかい?
これは私の独り言なのだけれど。
次に私が眠る時、今度は君が私を拾いに来てくれないかい?
こんな我儘な私だけれど… いつかまた会えるその時を楽しみにしているよ。
さよなら、ルーア。
おやすみなさい。
安らかな眠りを君に…。
◇◇
キラキラと月の光を反射して雪がきらめくその夜に
恋を知った私は君の幸せを願い眠りにつく。
また、会えるその日を楽しみに…
最後までお読み頂きありがとうございました!
その場の勢いと思いつきで書いたもの(いつも)だったのですが何とか完結させることが出来ました。
本当はルーア死亡からの転生!的な話を書こうと思ったのですが…プラス、転生がなくとも魔法の使える世界設定を組もうとも思ったのに…何故こうなったのか…不思議(*´・ч・`*)
改めてこの作品を最後までお読み頂き本当にありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
また皆様とお会い出来ることを切に願いながら私もそろそろ眠ろうと思います(明日も5時から仕事です…最近この時間明るくていいよね!)
おやすみなさい!良い夢を(˘꒳˘ )
By伊勢