◇恋
ドキドキ、胸がなる。
ふんわりと体を包むこの温もりは、鼓動は一体ーー?
◇◆◇
あの日、雪の中で凍死寸前だった私を拾い温めてくれた天使様は己と同じ人間だった。
あの後、眠りに落ちた私は彼の屋敷へと連れていかれたらしい。
暖かい部屋でフカフカの布団に寝かせられ食べたことのない美味しい食事を与えられた。甲斐甲斐しく看病してくれる“メイド”と呼ばれる女の人達は天使様…いや、彼のように孤児の私にも優しく接してくれた。
彼は“貴族”というもので、暗い裏の世界で暮らしていた身寄りのない孤児だった私を拾い屋敷へと連れ帰るとなんと、こんな私に居場所をくれた。清潔な部屋と綺麗な服を与えられ、給料を貰い人としての生活を教えてくれた。
「ルーア」
そして、こんな私に名前をくれた。
私だけの…
“ルーア”
それが私の名前となった。
人にはそれぞれ名前があった。
彼にも、メイドにも、執事にも、料理人にも。
屋敷にいる動物ですら名前があった。
名前のない人なんて、動物なんていなかった。
彼のくれた名前は私の大事な宝物になった。
呼ばれる度、私は私という存在を確かめることが出来た。
もう、私は孤児ではない。
もう、私は亡霊ではない。
私は―――――人間になれたのだ。
それからというもの、失敗も沢山したけれどその分沢山学んで彼に…
彼らに恩返しをしようと頑張って働いた。
その甲斐あって下女からメイドの仕事を任せられるようになった。
ゆくゆくは彼の婚約者のお世話もさせてもらえるらしい。
嬉しかった。
誰からも見向きもされなかった私が、誰かの役に立てることが。大切な彼の、大切な人の世話を任されるなんてとても光栄な事だと、滅多に動かない表情筋もその時ばかりは笑みを浮かべていたと思う。
これまで以上に精進しなければと、沢山の人に沢山のことを教わり彼女や、何より大切な彼が過ごしやすいようにと精進した。
ーーそして、待ちに待った結婚式。
私は、大切な人の幸せな顔を見て。
沢山の人に祝福を述べられる彼らを見て。
初めて“好き”という感情を知った。
“愛おしい”という言葉を知った。
恋とは、こんなにも苦しく悲しいものなのだと感じた。
彼に出会って、私はとても幸せだった。
なのに、その隣に私は立てないのだと漸く理解して…悔しいと感じた。
悲しくて苦しくて…でも、それでも。
ーー貴方が幸せそうで良かった。
貴方のことが大好きです。
ずっとずっと、愛しています。
きっとそれは、初めて出会ったあの時からーー。
拾ってくれてありがとう。
見つけてくれてありがとう。
名前をくれてありがとう。
貴方のおかげで、私は幸せでした。
どうか、どうか…お幸せに。
◇◇
貴方に貰った大切な名前を、思い出を胸に…
恋を知った私は貴方の幸せを願い眠りについた。
ここまでお読み頂きありがとうございました!
取り敢えず、ルーア視点のお話はこれで終わりとなります。次はルーアが恋をした“彼”視点のお話となります。
多分、恐らく明日にでも更新できると思いますので、どうぞ宜しくお願い致します<(_ _)>