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第1話「成長と嫉妬」

~ハルト・シトラス9歳~


「兄さん!いよいよ僕たちの模擬戦の日ですね!」「ああ。」


 弟のシアンが俺に話しかける。ここルーラル全土でも有数の名家であるシトラス家では跡取りに悩んだら模擬戦で決める。勝ったほうが家を継ぐ決まりでそれぞれの優秀さと家の教育の良さを領地内外に見せつける一種のお祭りでもある。そんなことができるのも大怪我を闘技場に付与された魔法が防いでくれるからだ。


 しかし、弟のシアンは俺によくなついてしまっている、こんなものでは緊張感も薄れる。


「だって兄さん僕より圧倒的に強いじゃないですか。僕の負けは決まったようなものです…」


 そもそもこの模擬戦はシアンの母親(俺の母親ではない)が父さんに頼み込んで実現している。シアン自身も望んではいない。とは言え俺たちがこの話を聞かされてから丸半年もともと一人だった俺たちの家庭教師は分けられシアンには別の教師が就いた。この戦いはその教師たちの戦いでもあるのだ。


「そんなことないだろう、お前の闇魔法の能力は先に修練を始めた俺を既に凌駕しているぞ?」


 実際シアンの闇魔法は俺を惑わすことになるだろう。そのくらい凄まじい努力と才能の持ち主だ。


「兄さんにそのように言って貰って僕も嬉しいです!」


シアンが喜ぶ。こいつ敵対心あるのか?


「それに俺はお前を圧倒的に超すものを持っていない。誰かを圧倒的に超す力というものはそれだけで大きな脅威であり自身の価値でもある。俺はお前に比べてそれがないんだ。」


 前世でもそうだったが社会は何でもある程度出来る人間より何かのスペシャリストを求める傾向にある。特にこの世界だと体力的に劣る子どもが魔法で一方的に悪党を倒す前世の魔法少女物みたいな事も十分に起こりえるしそもそもシトラス家含む名家には何かしらの一家に伝わる秘伝の昔話みたいな物や一家の出自でもある英雄譚がある。その点ではシアンは俺より偉大な人間になる可能性が高いとさえ言える。


「ハルト様、シアン様、ご当主様がお呼びです。」


 使用人が俺たちを呼ぶ。俺たちは急いで父さんのいる訓練場に向かった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 いつも俺たちと父さん直属の近衛兵しかいない闘技場は今日この日のために豪華絢爛に飾り付けられ、領地内外から来た人間が所狭しと並んでいる。俺たちはその中心に立ち一番上にいるだろう父さんをみる。


 シトラス家当主アルゴ・シトラスは厳格な人間として有名だ。俺やシアンにも厳しく小さい頃から剣や魔法の練習に領地経営の心得と多くのことを学ばされた。父さんが当主になってから領内の犯罪は低下した。父さんが兵を多く募集したからだ。その結果、雇用も増えて犯罪者も減ったらしい。

 しかし、最近の父さんはどこかおかしい。顔色が悪いし受け答えも怪しいことがありどこか生気が抜けたようだ。

 

 隣りの少し怪しいオーラをまとった女性はカーナ・シトラス、俺の継母であり、シアンの実の母親だ。権力欲が強く、自分の子を当主にするためにどうしても俺を排除したいらしい。

 先ほどからシアンに話しかけている。何を話しているのだろうか。


 父さんが俺たちに話しかけてくる。


「わが子らよ存分に戦え!そして自らの方が優秀だと証明せよ!」


 観客が沸き上がり、逆に俺たちの周りには真剣な空気で満たされていく。


 俺たちは握手をすると、闘技場の壁まで下がり自らの武器を受け取る。


 いつもとは刃引きしていない模造刀を使って練習している俺は今日は木刀を使うことに慣れない違和感を感じつつ構える。


 互いの闘気がぶつかり合う。俺たちの包んでいた空気が観客席にまで広がりさっきまで騒がしかった観客は水面のように静まり返る。

 

 考えろ、シアンは最初に何で来る?この戦いは正真正銘の一本勝負だ。どちらかが戦いを続けられなくなるまで続く。体力差では厳しい状況、最初から畳みかけてくるだろう、そう考えると最初の一発は得意とする闇魔法か?しかし流石のシアンといえど最初から詠唱をせずに発動できる魔法は限られてくる。


 考えられる魔法は足を遅くする「鉛の足」、身体能力を同程度にする「凡骨の誘い」、魔法詠唱を妨害する「三枚目の舌」、力を下げる「枝の腕」あたりか。


 まず「鉛の足」、「凡骨の誘い」以外は効果切れまで待つことができる、「凡骨の誘い」は剣の技量まで埋めることはできないから恐らく「鉛の足」で来るだろう。


 俺はこれを止めることができないから発動後、解呪する必要があるが「鉛の足」の後にシアンが突っ込んで来ると解呪が間に合わない。つまり俺は「鉛の足」を解呪しつつ攻撃を受け流す必要がある。


 「鉛の足」の影響で俺は足捌きで攻撃を受け流すことができないから、この剣でカウンターするしかない訳だが外したら窮地に追い込まれてしまうだろう。


 いやちょっと待てよ「鉛の足」は鈍足にする魔法、なら俊足にする魔法で相殺出来る。

 

 俺の思考を引き裂くように模擬戦の開始を告げるトランペットの音色


 「鈍せよ!鉛の足!!」


 シアンが魔法を発動するとともに俺に向かって突っ込んで来る。


 俺は突っ込んできたシアンにカウンターを仕掛けつつ魔法を詠唱する


 「羽ばたけ!天馬の脚!!」


 「天馬の脚」は自分の足を高速化する魔法、この魔法で「鉛の足」を打ち消そうとする魂胆だ。


 結果的に「天馬の脚」による体重移動は成功し、シアンに俺の強烈なカウンターが入る。


 しかしこんなもので終わる俺の弟ではない。すぐさま立ち上がり自己強化魔法の詠唱を始めた。


 「闇に轟け!強魔装!」


 「強魔装」は闇中級魔法で自分が受けたダメージに応じて自らを強化する強力な魔法だ。おそらくカウンターを読んで二フレーズ詠唱しないといけないこの魔法を唱えたのだろう。


 だが、その隙はシアンにとって致命的な隙となった。俺は「鉛の足」の解呪を終え残った「天馬の脚」による急速なラッシュに切り替える。「強魔装」は強いが効果時間が短いのだ。


 シアンは「強魔装」で上がった能力を生かして俺の剣戟をを受け流すが所々軽い攻撃を受けしまう。


「兄さん!やるからには一切手加減はしませんよ!」「いいだろう!」


 ラッシュで与えたダメージが「強魔装」によりシアンの力となり、その力はシアンが一発を通すのに十分だった。


 その一撃は俺の肩に入り剣を弾き隙が生まれる。攻守が逆転するかと思ったその時シアンは俺の策に嵌ったことに気づいた。


 本命は剣ではなくて脚だったのだ。


「稲光の力よ!!迅雷脚!!!はっ!」


 雷属性中級魔法「迅雷脚」によって雷を纏い、「天馬の脚」で高速化した右足が繰り出す回転蹴りがシアンを襲う!


 シアンは反射的に自分の持つ剣を盾にしたが、その剣を吹き飛ばしてその体には大きなダメージが入る。


 「ぐはっ!」


 シアンも大きく吹き飛びその小さな体は闘技場の壁に激突する。俺は自分の木刀を拾い上げシアンに近づきつつとどめのフルパワーの雷属性中級魔法「轟雷域」の詠唱を始める。


 「今此処は雷神が支配する領域也、その力は百の敵を滅する!轟け!轟雷いk」「避雷針!」


 シアンが負けを覚悟して目をつぶったその時だった。父さんが「轟雷域」の発動を「避雷針」で止めた。


 「なんてことをしてくれているのだ、これだとシアンは怪我を負ってしまうところだった。」


 「父さん!俺たちの戦いに口を挟むな!」「そうです!僕は負けを認めます!」


 「お前たちの意志など関係がない。そもそもハルトが領主になるには優しさが足りない。今すぐここから去れ!」


 民衆がざわつく。それもそのはず、このようなことは前代未聞だ!


 「父さん!」「去れと言っているだろう!」


 「避雷針」で吸収した「轟雷域」が俺とシアンを襲う!


 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」「ぐはぁ!」


 そもそも轟雷域は範囲内を攻撃する魔法であり、そんなものをここで放ったらシアンまで巻き込みかねず「避雷針」は吸収した雷魔法を放つときに自らの魔力を上乗せできる。感情の高ぶりは魔法の威力を増幅し俺たちに大怪我を負わせることは十分だった。


 俺はシアンを押し出し増幅された「轟雷域」を受けることとなった。


 まだかろうじて残った意識でシアンの無事を確認して上を見上げると怪しげな笑みを浮かべる継母の姿があった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 気が付いた時俺は吹き飛ばされたときに折ったらしい左腕を包帯に巻かれて見知らぬ屋上を見上げていた。

 

 どうやら誰かが俺をここまで運んでくれたらしい。


 それを確認すると激しい痛みにまた俺の意識が途絶えた。ああシアンは大丈夫だろうか?

魔法や魔力など分からない部分もあると思いますがその話は本編のどっかで取り上げようと思います。


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