第9話 幼馴染の弟と妹もまた、幼馴染である。(1)
◇◇◇
「ねぇ、ゆう兄。明後日、唯と一緒に姉ちゃんの誕生日プレゼントを買いに行くことになったんだけどさ」
「おっ? なんだ、デートか?」
「そ、そんなんじゃないよ。それでさ、なにを買ったらいいかなって……。ゆう兄、何か姉ちゃんが欲しがりそうなもの知らない?」
「琴葉が欲しがりそうなものか。うーん……――」
翌日から始まるゴールデンウィークを前に、部屋でダラダラと本を読んでいた俺を和葉が訪ねてきたのは、一昨日のことだった。
そして二人の買い物デート(?)当日の今日、俺はこっそりと二人をつけている。理由はまあ、二人のデートの様子を心配に思ったからだ。
「で、なんで琴葉がここにいるんだ?」
「やだなぁ。ゆーくんがいるからだよ」
「いやいや、それはさすがにちょっと怖いわ」
たった今偶然出くわした琴葉に、俺は目をやる。
「……本当は?」
「いやぁ、唯ちゃんから『和葉と二人で買い物に行くんだけど、どういう服を着て行ったらいいかな?』って相談されてさ。これは二人のデートの行方を見守るしかないじゃん?」
「なんだ。琴葉も同じか」
「っていうことはゆーくんも?」
「あぁ」
どうやら俺たちは兄妹(姉弟)そろって考えることが同じなようで、しかしまったく似合ってない丸メガネをかけて変装した気になっている琴葉よりは、黒いフードにマスクをつけて顔を隠している俺の方がまだましだろう。
「って、ゆーくん! 二人とももういないよ!」
「ん? あぁ、あっちの洋服屋に入っていったよ」
「じゃあ、私たちも行かなきゃ」
「ちょっと琴葉、待てって!」
知らない間に店を替えていた二人を追って、俺の腕をがっしりとホールドした琴葉は洋服屋へ足を向けた。
「(なあ、こういうのって入り口を見張ってればそれでいいんじゃないか?)」
「(なに言ってるの、ゆーくん。それじゃあ二人のデートがうまくいってるか、詳しく分からないじゃん)」
「(そこまでしなくても……)」
適当な洋服を手に取って試着室に隠れた俺たちは、こそこそとそんな話をする。
「ねえ、この服なんてどう? 私は似合うと思うんだけど」
「うーん……持ってるだけだと分かんないな。試しに着てみてくれよ。サイズもだいたい同じくらいだろ?」
「なんで私が着なきゃいけないのよ! それじゃあまるで、私たちがデートしてるみたいじゃない!」
「自意識過剰だよ。ほら、早く着替えろって」
「(まったく、二人とも素直じゃないんだから。二人でお買い物なんて、もうデートじゃんねー)」
「(ん? あぁ)」
そういえば、琴葉は二人が自分のためにプレゼントを買いに来ているとは知らないのか。
試着室まで筒抜けで話をしていた二人は結局試着することにしたようで、唯が俺たちのすぐ隣の試着室に入っていったみたいだった。
「どう? 良さそう?」
「まあまあかな。それなりには可愛いけどぱっとしないというか……」
しばらくすると唯は着替え終わり、隣からカーテンが開けられた音がする。
「なによ失礼ね。私ばっか試着させられても癪だわ。あんたもそこら辺にある服を着てみて私に見せなさいよ」
「いや、服がぱっとしないって言ったんであって、別にお前がぱっとしないだなんて言ってないだろ……。それに、俺が服着たって何の意味もないだろ」
「うっさいわね。そういう問題じゃないの。いいから早くこれに着替えなさい」
唯はぱっとしないと言われたのがよっぽど気に入らなかったのか、すぐ近くに吊るさっていたメンズの服を手に取って和葉を試着室へ押し込んだ。
「ズボンはこれで……上にはこれを羽織りなさいね」
「うっせ、指図すんな」
そんなことを言いながらも、素直に着替え始める和葉。微笑ましい。
「(やっぱりなんだかんだ言って仲良しだね)」
「(そうだね)」
なんだか二人の試着会が長引きそうな気がした俺は、試着室に入ってからずっと手に持っていたスニーカーを床に置き、座り込んだ。
「ふぅ……やっと行ったか」
「結局何も買わなかったみたいだね」
結局、二人はその後もプレゼントに関係ないであろう試着を続け、俺と琴葉が試着室から出られたのは三十分ほど経ってからだった。
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