98/295
その36 軛 睡眠列車
軛
疲れている
とくに神経が
それはもう
かなり前から
持病の悪化も
予感している
勤めをやめるのが一番なんだが
それでメシさえ食っていければ
他人に頭を下げずに暮していければ
定年を過ぎて
働かなくても十分食べていけるのに
なおも職場に執する人もいるが
むしろ
ムカつく
勤めをやめれば
生計だけか
失うものは
妻に対する立場
親戚の目
…
ハハ
生計を失って
どうして暮していける
所詮は
夢
鉄より堅い鎖が
俺を軛に繋いでいる
睡眠列車
この国の労働力人口の縮図のよう
勤め帰りの人々が
ずらりと向き合って
眠っている
他人の顔に
視線を当て続けるわけにもいかず
目を閉じれば
するすると釣瓶のように
疲労が眠りに落し込んでしまう
連なる歪んだ寝顔
在ることに堪えるように
眉根を寄せ
堅く目を閉じている
不意の脱力が葛藤を絶ち
仰向けに口を開けたまま
埴輪の顔となった者もいる
若者たちの小グループが
うわずった
ざらついた声をあげ
蜂の巣の中に
のめりこもうとしている
ほんの数人が目を開けている
どこを見ているのかわからない
虚ろな目を




