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詩帖拾遺  作者: 坂本梧朗
1990年代

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その28 ひととき   追憶

   ひととき


口に含むと

ゆっくり

五十回噛んだ

一つが口の中にある間は

他の食べ物を入れなかった

飲み物も飲まなかった


時間はゆったりと流れた


―一時に二つの事をするな

―人生は質だ


そんな言葉に頷きながら

何とも幸福だった

神経症の震えを

それとして

額の端にとらえながら

心豊かだった


周囲の人の顔や動き

卓上の器や箸が

鮮明に見えた


満たされて

もう一品など

少しも欲しくなく

眠気が起きた




   追憶


見誤ったものがある


受取り損ねたものがある


目が合えば

微笑が返ってきた

言葉のなかには

受容と励ましがあった


砂粒のなかの

同じ一粒のように

さり気なく

慎ましかったが


それを

見過したことは

恥であった


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