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詩帖拾遺  作者: 坂本梧朗
1990年代

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81/295

その20 義母の満州譚

  1


麻薬密売人の摘発があって

拷問のためか

肛門や膣に隠し入れた麻薬のせいか

死んでしまった人の遺体を

龍井の開拓医学院の

武道館の炊事場に

水槽をいくつか作って

漬けていた


義母(はは)は怖くて

近寄らなかったが

覗きに行った従兄弟が

「裸の人を切りよるよ」

と告げた


  2


攻め込んできた

ソ連軍に追われて

琿春の開拓団は

龍井に逃げてきた


腰に唐米袋を巻き付けた

裸同然の女が

(衣服は逃げる途中、

 木の枝などで引き裂けた)

泣きじゃくりながら訴えた


「母親は子供の犠牲になると言うけど

 最後は自分が一番かわいい」


歩けない幼い我が子を

谷底に突き落としたという


その場にいる人は言葉がなかった


こんなことをして

これから生きていけそうもない


女は激しく泣いた


自分もその立場になったら

同じことをしたかも知れない


義母はそう慰めた

そう慰めるほかなかった


  3


引揚げは

無蓋車にぎっしり詰め込まれて

何日も運ばれた


側板も何もない

周りにロープを張っただけの貨車で

ガタンと揺れると

幼児が縁から落ちたりした

それが親子の別れで

泣き叫ぶ母親を乗せて

列車は進んでいった


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