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その20 義母の満州譚
1
麻薬密売人の摘発があって
拷問のためか
肛門や膣に隠し入れた麻薬のせいか
死んでしまった人の遺体を
龍井の開拓医学院の
武道館の炊事場に
水槽をいくつか作って
漬けていた
義母は怖くて
近寄らなかったが
覗きに行った従兄弟が
「裸の人を切りよるよ」
と告げた
2
攻め込んできた
ソ連軍に追われて
琿春の開拓団は
龍井に逃げてきた
腰に唐米袋を巻き付けた
裸同然の女が
(衣服は逃げる途中、
木の枝などで引き裂けた)
泣きじゃくりながら訴えた
「母親は子供の犠牲になると言うけど
最後は自分が一番かわいい」
歩けない幼い我が子を
谷底に突き落としたという
その場にいる人は言葉がなかった
こんなことをして
これから生きていけそうもない
女は激しく泣いた
自分もその立場になったら
同じことをしたかも知れない
義母はそう慰めた
そう慰めるほかなかった
3
引揚げは
無蓋車にぎっしり詰め込まれて
何日も運ばれた
側板も何もない
周りにロープを張っただけの貨車で
ガタンと揺れると
幼児が縁から落ちたりした
それが親子の別れで
泣き叫ぶ母親を乗せて
列車は進んでいった




