その16 郷
郷
(義母が聞かせてくれた話を一つ)
前の家の一人息子は
ニューギニアへ
看護兵として出征して
消息不明になったんよ
(ニューギニアと言えば
十六万人もの日本兵が死んだ島だ
そのうち十万人ほどは餓死だった)
あそこは
娘ばかり四人いて
ようやく生まれた男の子だったんよ
召集された時
もう結婚していて
子供も二人いた
おいさん(父親)は気が気ではなかったんやね
もちろん生きて帰ってほしかった
いろいろな計画や段取りがあった
おいさんの髪は
数年で真っ白になったもんね
戦後
息子の上官だった軍医が
村に帰ってきた
ほら、○○さんのおじさんよ、病院やってる
おいさんはすぐ息子の消息を訊きに行った
軍医は風呂に入っていると言われた
待っていると袴をつけて出てきた
息子は栄養失調のため
病院で死んだと告げられた
うん、本当は山の中かどこかで餓死したんやろ
そんときは黙って帰ったんやろうけど
おいさんはそれから恨んだよ、○○のおいさん(軍医)を
「こっちは必死の思いで訊きに行っとるのに
人を待たせて袴などを付けて出てきて
木で鼻をくくるような話をして
すぐ出てきて
こうこうこうだったと
納得できるように説明してくれたらどうなんか
向こうから知らせに来てもいいくらいやぞ」
でもね
○○のおいさんはおいさんで
構えが要ったんやろうね
どう伝えたものか
自分が生還しとるやろ
後ろめたさもあったと思うよ
前のおいさんも家族も
それから○○の病院には
絶対かからんもんね




