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詩帖拾遺  作者: 坂本梧朗
1970年代
7/291

その7 In the rainy days(雨降る日々に)


前方から

雨が

激しく吹きつけてくる


顔を叩き

目を塞ぎ

服をぐっしょり濡らし

たまらなくする


男は

身内の力を集めて

傘を開いた


傘はわずかに

半身を被った

その後ろに身を屈め

足指を

泥濘に沈めて

懸命に進んだ


雨を突き抜ければ

陽の光に出会える


雨は渦巻になり

霧の粒子になり

上からも後ろからも

降りそそいだ


曝された男の背中に

それは静かに吸い込まれた


体にしみていく雨を

男は無視した


それは確実に

足の力を奪っていたが


吹き飛ばされまいと

傘の柄をきつく握りしめ

前に進む事

それで精一杯だった


男は泥濘の上に

息絶えて横たわる

自分の幻を見た


その時だ

隙なく垂れた

雨の銀幕を割いて

赤い傘をさした

清楚な娘が現れた


娘は前に立ち

男の瞳を見上げ

濡れ続ける背中を指して

首を横に振った

男は淋しく笑った

“背中をかばえば前には進めないさ”

娘は再び

首を横に振った

男は悲しく笑った

“俺の傘は大きくはないんだ”

娘は三度(みたび) 

首を横に振った


男は

娘の瞳を覗きこみ

やがて

嬉しく頷いた


赤い傘が

男の背中を被い

二人は一緒に

歩き始めた


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