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その9 転居
二つの空間があって
人間はなるほど
動くことはできるから
一つの空間に現れ
また他の一つに現れる
ことは可能なのだが
この空間は
あの空間の
否定によって
成立していたのだ
この空間に居たのは
あの空間を断念し
切り離していたからだ
あの空間から
この空間に戻ると
白けた光の中に
この空間に居た私が
ゆらりと立ちあがり
ブラインドを上げたり
頬杖をついたりする
そして
別れを告げる
〈お前を捨てるわけではない〉
と私は応じる
〈ただ 私は今
あの空間にも
愛をもって入れるようになったのだ〉
と




