67/295
その7 コンプレックス 唾を吐く
コンプレックス
コウモリは
音波を発し
その反射を捉えて
対象との距離を測る
人もまた周囲に
感性の波を発する
〈どうも嫌なやつだ
脅かされる感じがする〉
コウモリは
対象との衝突を
巧みに回避する
〈こいつ、早く消えないかな〉
コウモリは安全に
どこまでも飛ぶ
〈衝突はしたくない
といって怖気づいたような
態度はとらないぞ〉
コウモリは天井からぶら下がり
ゆったりと揺れている
〈ああ、視界が奪われる
どうしてこうこだわるんだ〉
唾を吐く
威儀を正した一列の
厳めしい顔の先頭が
恭しく頭を垂れ
捧げ持つ
黄金の瓶
の中味は尿だ
絞りとってきた
人間の血で
今では赤いのかも知れぬ
犬の尿だ
瓶の口から立ちのぼる
臭気
尿を頭の上に
押し頂かねばならぬ人間の
倒錯した讃美
列んで垂れた頭の上を
粛々と進んでいく
犬の尿




