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詩帖拾遺  作者: 坂本梧朗
1980年代

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その37 しゃっくりが止まらない


 酒を飲みながら ブッダについて語り 他者を批判していた ユダヤ教を語る相手に合わせて 火のような酒を飲んでいた 彼は興奮して グループの一人の女性を抱き 数回激しく接吻した 私は彼を裁いた 煩悩の徒だ、と  正覚者のような気分で そして席をたった。 


 家に帰り着き 自足して寝床に入った しばらくして ヒック と出た ヒック ヒックと続いた 変だな しばらくすれば治まるだろう しかし数秒毎に上半身は波打つ 寝返りをうっても その新しい体勢で 背中は律動をやめない 眠りたい 眠れない(ちくしょう) これは何だろう 不安が頭をもたげる もしかして ずっと止まらないのでは そして死にいたるのでは 何という飛躍だと その想念をわらってみる 肉体的苦痛には つくづくもろい自分だ 落着け 四念処を念じてみろ だが 心を落着かせようとする あれこれの工夫を 冷然と 持続するしゃっくりが 打ち砕く

 起き上がって 妻の体に手をやる おい起きてくれ おかしいんだ 妻は起きない 酔って帰って何を言うのか と思っているのかも知れない 起こしたくはない 明日はさんざん嫌言を言われるだろう また横になる どこから生まれてくる力なのか 上半身が不意に しかも五、六秒毎に突き上げられる 抵抗は不可能だ みぞおちのあたりが 灼けるような感じがする もうどのくらいの時間がたったのだろう この状態になってから 眠ることもできず そのうえ体は運動を強制されている 体力は消耗するばかりだ 朝まで続くのか そして死まで― 天井を見上げる 何も見えない 寝室は闇で覆われ 失明したように 一点の明かりもない 再び妻の体をゆすぶる おい起きてくれ おかしいんだ 酔って言ってるんじゃない 救急車を呼んでくれ 唸るだけで妻は起きない 罰を受けたのだ 酒を飲みながらブッダを語った罰を 口先だけで悟りすました罰を 手を合わせる 許してくれ 助けてくれ この苦しみを除いてくれ ああこれだ 私が恐れていたのは 吐き気 口を押えて立ち上がる 階段の降り口で 再びせりあがる 押えきれず 階下に向かって 吐瀉物が 放物線を描く なおも吐き気 便所に駆け込む 便器に顔を近づけ 吐く 吐く時の 発狂するような苦しみ ちぎれそうな内臓 あの 酒を口に注ぎ入れながら交わした 聖なるものに関する とりすました会話の 虚偽と無力 の現前




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