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その32 逆行者 妄執
逆行者
(飲み事があり、職場近くの同僚の家に一泊。翌朝、予定通り欠勤と決める。)
朝
職場のある町を離れていく
電車の停車場で
渡船の発着場で
職場に向う人々と行き違う
私は逆行している
人々が求めるものを
捨て去る
人々が集中する一点から
離れ去る
流れにあらがう杭
視力が落ちれば
見えなくなる
だが確かに
逆行の中にだけある
楽しみ
路程はずっと雨
渡し場も
プラットフォームも
電車の窓も
歩み入る
商店街も
シャッターを
降ろしたままの時刻
逆行者は
傘をさし
人々のようでない自分
を楽しみながら
雨雲りの
閑寂な街を
歩く
妄執
一夜明ければ
消えてしまうものだった
だが昨日は
確かにそのために
心は強張り
口も凝固したのだ
憩いの時に
ぱっくり
赤い口を開ける
生存の盲目性
囚われ人の
傍迷惑な
滑稽な
そして悲惨な
無言劇




