49/295
その31 尿 根源からの出発
尿
危篤の病人の
ベッドの脇に吊るされた
ビニールの袋に
管の先から滴り
たまっていく黄色い尿
この量の増大が
危機脱出の指標という
生命とはつまり
尿がたまっていくこと
自我という錘を負って
喘ぎ動く
あれら肉体達の裡にも
しとしと滴り
たまっていく尿
不断に駆り立てられ
ひきまわされる意識を
隠蔵する
肉体の暗所に
しとしとと
尿が落ちている
膀胱に
毎秒たまっていく尿
生存することの
それ以上の意味
根源からの出発
爽やかな色彩の
朝の列車に乗って
窓から
白い陽差しが射しこむ
清潔なシートに座り
深呼吸をして
目を細める
線路前方の輝きから
額に吹きつけてくる風
ああ、することがある
今日からはすることができる
明日も明後日も
並び待つ日々は
夢に生きる生活
早朝の列車に乗るなら
すべてを捨てて
そんな出発をしたいと
幾度か思ったものだ
出勤の
重苦しい車両のなかで
その黄金列車で
どこに着くつもりだったか
白金のレールも
闇の中に溺れていくのに
薔薇色の到着地も
やがて闇にのみこまれよう
なぜなら
腰をおろすと間もなく
座席を黒く染め初めているから
自己という暗黒から
流れ出す闇が




