その23 女房の夢の話
日曜日の朝だった。私は平日の朝のように早くから目覚めて眠れなかった。私には休日だったが、女房には平日だった。私達の休みはくい違っていて、それぞれ一人で過ごすのだ。起き上がった女房が面白い夢を見たと語りかけた。
光線銃を持った男達がアパートの一室を窺っている。その部屋には二人の子供がおり、彼らにはどういうわけか親がいない。(既に殺されたのか。)みなし子達は秘密の宝物のありかを示す何かを持っている。壁をつきぬけてくる光線に追われて部屋中を逃げ回ったあげく、二人は外に飛び出した。光線は(それは光ファイバーのように細い)他の一切のものを透過して人体だけを害うのだ。それが当るとジュッと皮膚が焼け、ケロイドとなりやがて死ぬ。
怯え、逃げまどう子供達を女房は自分の部屋にかくまった。
呼鈴の音。ドアを激しく叩く音(男達は気づいたのだ。)。
やがて、壁をつきぬけてきた光線。
女房は小用に立った。私は知っていた。夜が明けようとする頃だ。習癖のようになった不安なもの思いのために私は既に目覚めていた。戻って横になった女房に夢の続きが訪れた。
森の中。丸太造りの家。湖が近い。(北欧だ。こんなところまで逃げてきたのだ。)画面はいつのまにかアニメーションになっている。木こりが一人、女房らが隠れ住む家に近づいて来た。コサックのような帽子を被り、あご髯を生やしているが、光線銃の男達の一人だとわかっている。アニメになった男の顔のクローズアップ。切り絵の人物のように白目と黒目のコントラストが鮮やかな切れ長の目。最近越してきましたのよ、何気ない風を装って答える女房の顔を冷ややかに見る。
景色はちぎり絵の世界。森の樹々を表す緑色、青色の帯。丸太造りの家の暖かい橙色。こんな環境の中のこんな家もいいな。しかしここも長くない。
来たぞ、用意だ。
丸太を貫いて光線。美しい桃色。これが死をもたらすのか。しかし触れれば痛いはず。ほら、子供の一人に命中。悲鳴。腕から煙。生き残りの手を引いて、裏口から転げ出る。逃げろ、湖へ。
黒い山に囲まれた、藍色の大きな湖沼。熱のない日が照っている。なぜ、こんな遠いところまで来てしまったのだ。(ガリラヤ湖のようだ。)冷たい水の上でウインドサーフィンをしている人。泳いでいる人。抜き手を切る、水面で半分に切られたのっぺりした顔がニッと笑った。奴らだ!
モーターボートのように飛沫をあげ、こちらに向って泳いでくる。その猛烈なスピード。逃げようとするが砂に足をとられてころぶ。急いで起き上がり、駆け出そうとするが、手を引く子供がまるで走れない。男達は砂浜にあがり、こちらへドドドドッと走ってくる。絶望して眺める眺める前方の砂地に、浮きあがっているクリスタル文字。宝のありかが示されている。これを知られては、万事休す。
長い、長い夢。明るい顔で楽し気に語る。めったにないこと。夢といえば胸を塞ぐ、思い出したくもないものばかり。語り終えて、ひとしきり話が弾んだ後、女房は物悲しい顔になり、私も言葉を失くした。女房は出勤の支度を始め、私は寝返りをうった。




