表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
詩帖拾遺  作者: 坂本梧朗
1970年代
4/291

その4 坂

 私の家は山腹にあり、街から家に帰るにはかなりな坂道を上らねばならない。


 坂道は石段を経る道と曲折した舗装道路とに分かれ、少しでも距離が短い事を願う私は、大抵直線で急な石段道を選ぶ。


 石段を上りはじめて間もない頃は、頭を下にむけて、石の面を見詰めながら、一気に上った。それが私の人生に新たに加えられた、従って克服しなければならない困難の一つであるかの様に、律義に、休む事なく。だが上り切って肩で息をする自分の姿は、やはり如何にも奇妙で、風が通り抜ける程に希薄だった。なぜその様に気を詰める。たかが坂道一つのことではないか。私は自嘲し、自問した。


 ゆっくり上ることにした。

 途中で休んで、残りの石段を見上げたり、既に足下になったそれを振り返ったりする。少し息を抜いて、眼下の、今そこから脱けてきた街を見渡す時もある。そんな時、ふと街に対する問いかけが心で動く。やがてその街で、今日もスレ違いスレ違い動いた自分の姿が浮かぶ。痛みが素早くその姿を追い払い、さあ急ごうと私を促す。前屈みになって、一、二、一、二、イチ、ニイ………。だがこれでは以前と同じだ。


 この坂道は苦しい。

 なぜ家に着く前にこの様な坂があるのだろう。お前は何をしてきた? お前は何をしている? 石段は私に問いかけ、苦い思いが胸に広がる。


 目指す地面が目の高さになり、更に下がり、平面となって広がり、その上に、苦く苛立たしく膨らんだ思いが脆くも拡散して、私は坂を上り終える。 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ