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その20 九月の詩 蟻
九月の詩
人形が三体
本屋の店先で
静止していた
じっと見ていると
一体の肘が
からみつく静止の網を
ふりほどくように
動いた
その隣の一体は
前後に揺れていた
その隣の一体は
依然静止したままだったが
本を読む立像の内側に
充ちている 動き が
今ははっきり
読みとれた
生きているのだった
蟻
階段のように
正面に現われ足下に消えていく
時間の連鎖
見送ることしかできない
生きている刻々
席を暖める間もなく反覆される
受けとめ手のない疾走に
泉は涸れた
垂直に際限もなく降りてくる
時の白い壁を
這い上がる蟻
落ちたくはない
貼りついたまま陽に灼かれ
カラカラの骸になりたくもない
這い上がるほかはない、だが
壁に映る己の影さえ
訝しいのだ




