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詩帖拾遺  作者: 坂本梧朗
1980年代

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その17 月光   「四季」

    月光


月光が射しこんだ

妻のドレッサーの椅子が

ほう と浮かびあがった


この部屋にも

このような光が

射し入るのか


光のなかに

溶け入って

遊べたのは

あれは子供のころか


いまはせいぜい

照らされた畳の目を

数えるだけ

そして

さよならだ



  ヴィバルディ「四季」冬のテーマ―思い出として 


 朝、外はまだ暗い。部屋の真ん中で燃えるストーブ。そのそばに着がえの服を持っていき、体をストーブに貼りつけるようにしてパジャマを脱ぐ。膚を刺す寒気。急いで服を着る。腿を包むズボンの冷たさ。首のボタンをとめるときの、ぴったり膚にくっついてくるワイシャツの冷たさ。朝早く起きねばならないことの、淡い不幸感。それらをふっきるように、着かえの間中テレビに注がれる視線。

 「みんなの歌」という番組が始まる。五分間のその番組が終ると同時に家を出なければならない。画面の右下の数字が、出発までの時間を急速に詰めていく。靴下をはき終えて一息ついた頃、テレビから流れ出すそのテーマ。

 雪の降りつもった丘を登る七、八歳の女の子。飛白模様の綿入れにモンペ。わら帽子にわら沓。雪に埋まる足をひき抜くようにして歩く。雪片のついた前髪。赤い頬。丘の上に立って、見渡す一面の野は白。遠くに並ぶ冬木立。見あげれば、灰色の空から際限もなく舞い降りてくる雪。歌声が流れる。

 ……かあさんと歩いた道を……


 この子はどこまで行くのだろう。かって母親と歩いた道を一人で。この白いはるかな前途を……。歌が終ると、中学生は弾かれたようにカバンを肩にかけ、帽子を被って外に出た。バス停までの寒い坂道。あの女の子のようにうつむいて歩いた。


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