その15 弁明
あなたの沈黙が伝えてくる失望、おそらくは怒り、総じてあなたが受けた傷。
わたしは打算的な人間ではありません。私は少しばかり気苦労をしすぎたのです。まだ稼ぎもしない若い頃、金銭の事のおもさを想像によって感受性に焼きつけてしまったのです。火が水に対するように、夢見がちな心はその破壊者に過敏でした。傷はケロイドとなって、今もわたしの口をひきつらせます。金銭がからむ時のわたしの心の痙攣―それをうち破って出てくる言葉は装飾をつける余裕がないのです。スポットライトの中でセリフを忘れた役者のように、私は世界を見失うのです。闇に向かって裸で投げだされる言葉の無残。
あなたとわたしの痛みの実在。
わたしは打算的な人間ではありません。どちらかといえば精神的な人間です。いつも火ばしでつつかれている精神。痛みに歪んだ精神は、かたわな、屈折した表現しかできなくなりました。かなえられたら! あなたが私の苦痛まで降りてきて、そこに溜っている涙を掬うことが。
それはかなわぬまでも、せめて感じてください。私のくぐもる声に。同じ言葉の芸のないくり返しに。
受話器を置いたあとに訪れる煩悶。あの申し出をしたとき、わたしには善意のほかになにもなかった。




