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詩帖拾遺  作者: 坂本梧朗
2000年代

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その24 最後の一杯   自動改札機が挨拶する

最後の一杯


                       

頭を撫で

背中を撫で

眉間を押して

毛むくじゃらの顔に

唇を押しつけると

お前はゴロンと横になった

腹を見せて


ピンク色の地肌が透ける

無防備に開かれた

小さな腹に

俺は怯える


今は優しい俺だが


飲めば飲むほど

優しくなれればいいのだが


この辺でやめておこう

俺の中の

凹まされた部分が

耐え切れず

(おら)びだす前に


俺たちが生きている社会では

酔った奴は凶暴になる

優しくなる代わりに


これが最後の一杯




   自動改札機が挨拶する

                        

自動改札機の後ろに

今朝も立っていて

声をかけてくるのだ

オヤダマースと


〈お早うございます〉

の言葉が

紋切り型の早口なので

「親騙す」としか聞こえない

声の主は

ダブルの制服をぴしりと着て

赤地の帯に金筋の入った帽子を被っている


挨拶されれば

返さなければと思う

律義者には

爽やかでもない気分の時に

煩わしいことだ


駅長に昇進した

あんたの張り切りか

あんたに見習って

今日もしっかり働け!

というハッパか


いや

これは職務なのだ

改札機とセットになった


声をかけるのも

返すのも

生身の人間なのに


つながらず

その辺り

空しく落ちていく

挨拶の言葉



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