127/296
その24 最後の一杯 自動改札機が挨拶する
最後の一杯
頭を撫で
背中を撫で
眉間を押して
毛むくじゃらの顔に
唇を押しつけると
お前はゴロンと横になった
腹を見せて
ピンク色の地肌が透ける
無防備に開かれた
小さな腹に
俺は怯える
今は優しい俺だが
飲めば飲むほど
優しくなれればいいのだが
この辺でやめておこう
俺の中の
凹まされた部分が
耐え切れず
叫びだす前に
俺たちが生きている社会では
酔った奴は凶暴になる
優しくなる代わりに
これが最後の一杯
自動改札機が挨拶する
自動改札機の後ろに
今朝も立っていて
声をかけてくるのだ
オヤダマースと
〈お早うございます〉
の言葉が
紋切り型の早口なので
「親騙す」としか聞こえない
声の主は
ダブルの制服をぴしりと着て
赤地の帯に金筋の入った帽子を被っている
挨拶されれば
返さなければと思う
律義者には
爽やかでもない気分の時に
煩わしいことだ
駅長に昇進した
あんたの張り切りか
あんたに見習って
今日もしっかり働け!
というハッパか
いや
これは職務なのだ
改札機とセットになった
声をかけるのも
返すのも
生身の人間なのに
つながらず
その辺り
空しく落ちていく
挨拶の言葉




