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その20 末期 甲羅
末期
数年間も覚えている事件が
昔はあった
この頃は
一年と覚えていられない
昔なら
数年の記憶を刻みつけたろう事件も
月に何度も起きては
覚える暇もない
子の親殺し
親の子殺し
孫の祖父母殺し
祖父母の孫殺し
事件の背後から
この社会の軋みが聞こえる
生き難さに呻吟する声が
いくつも重なり合って
洞穴の中のように
おぞましく谺してくる
崩れていく
これまでは崩れなかったものが
この崩落は
きっと棟木を折るだろう
何かが終わろうとしている
甲羅
坂本梧朗
発したのは
情理を兼ね備えた言葉
のつもりだったが
予期せぬ反応に
戸惑うことになるのだ
弾き返されて
初めて浮きあがる
向こう側の心
もう一つの情理
それが見えなかった
己の視力
カニは自分の甲羅に合わせて
穴を掘るという
さして大きくもない甲羅




