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その11 亀裂 五十歳
亀裂
深い亀裂だ
ピシピシと
広がるばかりの亀裂だ
しだいに細かくなるピース
紺色に照り返すクリスタルの中を
一人歩くことにも
いささか疲れてきた
亀裂は増すばかりではないか
心は涙を流すばかりだ
濡れない涙を
軋んで
何が埋めるのか
これだけ開いた亀裂を
深まる裂け目を
一人歩く心も
やがて張り裂けよう
大きく断裂した
この社会の基盤から
蜘蛛の網のように
無数の亀裂が走り出し
足をとらえ手をつかみ
目をふさぐ
五十歳
五十になるまでに
人は一通りのことを
経験するのに違いない
五十面をさげれば
大体のことに
対応のマニュアルはできていて
若い者のような
馬鹿な失敗はできない
そんな心構えが
心のどこかにできている
五十を過ぎたからといって
俺が突然賢人になるわけでもないが
その自戒を
阿呆らしいとも思えない
五十年の
それが重みか




