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その8 スポイル 生まれたままの
スポイル
過ぎてしまった
私の時間は
あくせくするうちに
いつの間にか
手放していた
生きる意味に
したかったものを
代わりに
手にした
いろいろながらくた
もう立てない
そこには
立つ力がない
身をよじるのは
私のなかに
まだ少し残っているエキスか
くそ
くそ!
こんなんじゃなかった
俺はこんなんじゃなかった
生まれたままの
(ある作業をするときの、手指の動かし方のコツを人から教えられ、
知らなければ、そんな手指の使い方は一生しなかったかも知れぬと思った。)
人には
生涯一度も
使うことなく終わる
部分があるのではないか
塵労にまみれて
倒れた人にも
その心と体のどこかに
一度も使われなかった
無垢なものがあって
汚れきり
疲れきり
今は横たわって
息絶えようとする人のなかで
その生まれたままのものが
その人が生まれた瞬間の眩さを
語りかける
かなしさ




