108/295
その5 死んだ神経
触った指先を嗅げば
腐臭がする親不知
抜いた方がよいと言われてから
一年以上も放っておいた罰
一つ抜くだけではおさまらず
その前の歯も蝕まれ
支える骨もとけているとのこと
三十分以上もかかる手術となり
傷口は縫合するほど大きく
打撲されたように
口が開かなくなり
リハビリまで必要となった
歯は入ったのだが
冷たいものが触れると
しみるシミル
顔も体もヒュンと縮む
神経は生きているのだ
冷えた飯さえ
ギーンとしみる
歯磨の後
口をゆすぐのも
おっかなびっくり
舌と頬の内側の肉を
微妙に動かしてガードする
癇癪をおこして
冷水を歯にぶちあて
ウームと天を仰いだことも
四ケ月が過ぎた頃
歯茎の痛みに
寝つけない夜が二晩あり
歯に穴が開いて
神経がモロに出たような
ピシという痛覚が走って
ナスを黒焦げに焼いて
その皮をすりつぶしたものを
歯茎に擦り込んだ
今日の昼食の時だ
熱い皿うどんが
右の奥歯に運ばれても
平気で噛める
左側と変らない
これは、と思って
氷入りのグラスの水を
ぐいと飲むと
やはり痛くない!
終ったのだ
ようやく闘いは
あの二晩の疼きは
奴の断末魔か
なぜか
奴があわれだ
もう死んでしまったと思うと
ほっとすると
センチにもなれるか
それほど俺を苦しめた奴




