ぼくはチンアナゴ
チンアナゴなのに、ヒューマンドラマ。
これ、いかに。
ぼくはチンアナゴ。
生まれも育ちも、この密閉された真っ白な部屋。
三方向を壁に囲まれ、一方は真っ暗な空間が広がっている。
こんな世界でずっと生きていけるかなんて、誰にもわからない。
でも、空から美味しいご飯が毎日降ってくる。
どうやら神様は寛容らしい。
ここにはぼく以外にも住人が三人いる。
一人はずっと空を眺めて、落ちてくるご飯を待ち続けている。
もう一人は、真っ暗な空間に時々現れる化け物が近づいてこないか警戒している。
なんと、真っ暗な空間には生き物がいる。
ぼくたちよりも巨大な目玉を持った化け物が。
その化け物はぼくたちを一頻り眺めると去っていく。
生まれたときからここにいる。
そしてその化け物もそこにいる。
こわい。
とてもこわいけど、彼らはこの部屋には入ってこない。
だから、もう慣れた。
化け物に見られるだけの生活。
そして天から降ってくるおいしい食べ物を食べる毎日。
そうだ、ここにはもう一人、住人がいたんだった。
その子は不思議な子で、ぼくたちのことを見て、
「ちんあなご!ちんあなご!だははははっ!ちんあなごだって!」
と、なぜか笑っている。
なにが可笑しいのかわからない。
ただ、一つ言えることは、彼女もチンアナゴであるってことだ。
彼女のことはおいておこう。
ぼくも彼女の言いたいことは、わからないわけではないからね。
でもさ、この世界は変わらないよね。
真っ暗な世界の先が気になる。
でもきっと、ぼくはずっとここにいる。
ぼくが化け物に食べられない限り。
ぼくはチンアナゴ。
ぼくはチンアナゴ。
「だははははっ、ちんあなごだって!」
ぼ、くはっ、あははっ……もう、笑わせないでよ。
ぼくは、いや、ぼくたちはチンアナゴ。
ここがぼくたちのおうち。
ぼくたちのせかいだ。
「だははははっ!ちんあなごだって!」
あー、もうだめだ。
チンアナゴ面白すぎる。