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1-8.

続かないかもしれません。

 聖セシリア女学院、聖アグネス女子学院、聖バルバラ女学園、仏心礼法女学校…etc…etc。

 何といえば良いのだろうか。ある程度以上の年齢であれば名前を聞いただけで、「聞いたこと無い名前だけど、お嬢様学校だというのは分かる」と言いそうな名前がずらりと並んでいる。所在地が複数記載されているものもあるが、これは大学でいう別キャンパスのような物なのだろう。


「まあ。思っていたよりもずっと多いのね」

「そうだね。本家が認める程の正しい淑女教育が行える教育機関がこんなに残っているというのは、本当に嬉しいことだね。あ、ほら、裕美ひろみさんの出身校でたところもあるよ」

「あら、本当。もしかしたら曾祖母ひいおばあ様がご配慮下さったのかしら?」

「あはは。それこそ義曾祖母ひいおばあ様に限って、だよ。挙げられてるのは何れも評判の良いところばかり。裕美さんの出身校だからというだけで二流の学校を薦めるような事はしないさ」

「そうかしら?」

「そうだよ」


 ソファセットに隣り合って座り、フルコンポから流れる曲名不明の穏やかなクラシックをBGMにして、資料──一覧と併せて渡されていたらしい其々の教育機関の紹介パンフレット──を楽しげに読む両親とその間に挟まれて微睡んでいる保育園児。

 背景に映り込む目に優しい色合いで落ち着いたデザインの家具も相俟って、分譲住宅などの広告写真にでも使ったら理想的な家族団欒の微笑ましい絵面になるのだろうな。

 などと韜晦してみても、やはり現実が私の現状を鑑みて譲ってくれたり寄り添ってくれたり、なんて事は無いのだよなあ。

 高祖母の持ち家に居た時にも少し考えた事ではあるけれど、状況が進めば進むほどに将来の虐め回避への敷居の高さが増していっている、というのがどうにも辛い。

 平均的庶民の中ですら結構な難問だと思っていたのに、名家が支援するお嬢様学校という上流階級主体の中で高嶺の花、またはそこまではいかずとも名前負けしない程度の才色兼備を目指すって、どんな拷問ですか。

 名前に端を発するという大前提さえ無ければな。陰気でも派手でもない見た目も成績も平均的な地味な娘を目指せば、好き嫌いの別はあるだろうけれど虐めに遭うとまでは行かない、と思うのだけれど、所詮「たられば」だし。

 上流階級における虐めか。

 しっかりとかき混ぜた納豆みたいに、ねばねばねとねとしているのだろうなあ。社会の柵によって、私個人に対してだけでなく、お互いの実家や親族、その他の関係各所にまで粘った糸が広がって絡み付いていくのだよ。きっと。

 そんな状況になれば身体はともかく精神が耐えられる気がしないし、今この時、私の両側で私の将来を想像して笑っている両親が巻き込まれれば、私自身が自分を許せそうにもないのだ。

 ヤバいなあ。

 虐め回避は努力目標ではなく必達目標にせざるを得ない。またもや難易度が上がってしまったよ。なんでこうなるんだろうか。


「ねえ、花恵はなえちゃん。ママね、花恵ちゃんもママの通っていた学校に通ってくれたら嬉しいの。花恵ちゃんはどう思う?」


 えっ?

 ちょっと待って!?

 待って待って待って。何でここに来て更に敷居を高くするの!?

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