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1-6.

続かないかもしれません。

「こうして改めて二人に来て貰ったのはね、旦那様あのひとの遺した遺言についてなのよ」


 そんな言葉を枕にお婆さんが話し出したのは、この度お亡くなりになったというお婆さんの夫の遺言の中に私に関わる事柄があるという、両親にとっても勿論私にとっても首を傾げたくなる事実だった。

 背筋は伸びているわ肌艶は良いわ、と両親の曾祖母──私からみれば高祖母──とは思えないほど若々しいこのお婆さんの夫──私からみれば高祖父──が、亡くなる数日前に突然お婆さんと弁護士を呼んで正式な遺言状を作成すると言い出したのだそうだ。

 主な内容は遺産相続に関する事柄で、それもほぼ法律通りのもの。遺族が少なくないので、明示的に書面を残し余計な混乱や要らない争いを避ける為の言ってしまえば保険の様な物だ、とお婆さんも弁護士も思って筆記していたらしいのだが、話も半ばから様子が変わった。

 遺産配分とは関連性の乏しい、曾孫以降の世代の将来についての要望を口にし始めたらしい。

 息子や息女むすめについては、お婆さんと二人で出来る限りの愛情を注ぎ、何事にも最善もしく次善ではある思う学びの機会を用意して、何処に出しても恥ずかしくない人物に育てる事が出来た、とお婆さん曰くの「自画絶賛」に浸った後に「しかし」と。

 孫世代までは人数もそれほどでなく、また時節毎の集まりなどもあって目を届かせる事が出来たが、曾孫世代になると流石にそうも行かなくなった。孫世代ですら嫁入り婿入り等で枝分かれしているのに、さらにその先となれば語るに及ばず。

 という訳で、正に命の灯火が潰える時の迫った心に、断じてこのままにしておく訳にはいかない、という決意の炎が燃え上がったのだそうだ。

 そしてその想いから、曾孫世代以降で十四才未満の者については本家が出資もしくは後援している格式ある教育機関のいずれかに通わせるように、との遺言を遺し、私もその対象に該当するため此度の話と相成った、と。

 言いたい事は分からないでもないでも無いのだが、高祖父様よ、幾らなんでも少々極端過ぎはしないだろうか。過保護の上にも過保護というか禍保護というか、有り難迷惑この上ないぞ。

 転籍させるのは忍びないから次の教育機関への進級時──現在小学生なら中学校、中学生なら高等学校──からで良い、って両親が教育機関の一覧を渡されているのだが、高祖母の中では遺言に従わないという選択肢は存在すらしていないらしいな。両親にしても戸惑ってこそいるものの断るという雰囲気ではない様子だし。

 それにしても嫌な予想ほどよく当たるとはこの事だな。格式ある教育機関に出資だの後援だのと、高祖母の座す本家とやらはどこからどう考えても一般家庭とか庶民とかの枠には当てはまりそうにない。

 願わくば、エスカレーター式お嬢様学校とかに通わされる羽目になりませんように。

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