1-5.
続かないかもしれません。
主観的には結構な時間を待たされて、ようやく姿を顕した今世の私の両親は、前世の記憶が溢れる前の最後の記憶とは異なり、何故か喪服を纏っていた。それも私の記憶が間違っていなければ正喪服と呼ばれる、喪主側が着用する最上格の代物。
どうやら私にとっても親族である何方かが亡くなられた、と言うことらしい。ご冥福を祈らせていただく事としよう。
さて、その両親はといえば、早速とばかりに私をベッドから抱えあげると、そのまま踵を返して部屋から連れ出した。
父の後に私を抱いた母が続き、廊下を通り階段を下りまた廊下を通って──年齢的に抱っこされているのは仕方ないとしても、途中に階段があった為か私の顔が自分の体側になるように抱えられている所為で、自然に首を回せる範囲では両側の壁を向くのが精々。周囲の状況の観察がし辛くて仕方がない。
正面を向けさえすれば、父の背中が少々邪魔ではあるものの、廊下の長さとかドアの数とか調度品の類いとかをある程度は観察出来るのに。
しばらく歩いた後、観音開きのドアの前で立ち止まると、両親は徐に喪服の乱れを正し始めた。母に至っては、顔が正面を向けられるように私の抱え方まで直している。
どうやら部屋の中にはそういう立場の人が居るらしい。
家の雰囲気から予想はしていたものの、ノックと応答という手順を踏んで入った室内は、皮肉で無しにご立派としか言い様が無い。
やや奥に長い長方形の部屋の中央にはドアから見て奥に当たる短辺に一席、左右の長辺に五席ずつの重厚なダイニングテーブルが設えられ、左手側の壁には天井から床までビロードのような光沢のあるカーテンが下がり、奥と右手側の壁には安物とは思えない絵画が数点掛けられている。
テーブルには、左手一番奥からお婆さん、年配の男性、年配の女性、父と同年代らしい女性の四人が着座しており、全員が両親同様に喪服姿だ。
「義仁さん、裕美さん、どうぞお座りなさい」
左手一番奥のお婆さんに手のひらで対面の席を示しつつ呼び掛けられ、両親が右手一番奥から父、母と抱っこされた私の順に腰を下ろした。
前世で学ばせられた上座や下座、席次で考えると妙な席順に思えるのだが、席を指示したお婆さんがこの場の第一人者らしいので、気にしないでおこう。うん。
「義曾祖母様、改めましてこの度は」
「ふふっ。お式でもご挨拶頂いたのに、義仁さん達は本当に律儀ねえ。お彼岸で旦那様も苦笑いしてるわよ、多分。……花恵ちゃんもありがとうね」
お婆さんに対して両親が深く頭を下げたので、なんとなく私も頭を下げてみたら、お婆さんが口許を押さえてくすくすと笑った。残る三人も苦笑気味だけど、なんというか全員やけに上品だ。「おじちゃん」「おばちゃん」じゃなくて「おじさま」「おばさま」が似合いそう。
どうやら思ってた以上に上流な家柄との縁がありそうだ。上流階級での虐めというと家柄の上下関係とかが複雑に絡んだ無駄に陰湿なものという印象があるからな。
なんというか新事実が判明する度に虐め回避の難易度が上がっていく気がする。
もうそろそろお腹一杯な感じなんだが、そろそろ勘弁して貰えないものだろうか……。