1-4.
続かないかもしれません。
家族構成は両親と私の三人で、父の名は「義仁」で母の名は「裕美」。名前の音は呼び合っているのを聞いているので間違いないと思うが、漢字の方は名刺らしき物を見た事があるだけなので少々怪しい。
住居は庭付き二階建の戸建て住宅で、自家用車は夫婦各一台に二台所有。国産車か外車かは分からないが、父の車はシートが革張りに見えたので大衆車では無い、と思う。
ご近所もデザインこそ違えど似たような庭付き戸建て住宅が大半で、稀に駐車場やマンションやタウンハウスが建っている程度。
通っている保育園は……どうなのだろう。前世の記憶では保育園には通っていなかった為、普通なのか高所得者向けなのかが判別できない。いや待て、専業主婦か在宅ワークかは分からないが母が家に居るのに保育園に通っているというのは、高所得である事の傍証といえるのかもしれないな。
生活様式は洋風。食事風景はテーブル&チェアで部屋は全部洋間。両親の呼び方はパパとママか。少し抵抗があるな。お父さんとお母さんに変える……のは、やはりダメだろうな。
あとは……もう無いな。流石は保育園児の記憶だ。有用と思える情報が非常に少ない。
まあ前世の記憶──面倒なので「らしきもの」を付けるのはやめる事にする──に照らして考えると、高峯家はそこそこに裕福な家庭なのだろうと思われる、という判断が出来ただけで十分だ、と思おう。うん。
相変わらず、この家の記憶は欠片も思い出せないのが謎だが。
あれ、ちょっと待て。この思考ってどう考えても前世のアラサー男の人格基準になってるよな。記憶が戻る前に形成されつつあった保育園児の私の人格や思考は、同じ脳に密度も量も勝るアラサー男の人格や思考が注ぎ込まれたが故に薄まってしまった、ということか。
アラサー男の記憶が溢れる前はどんな思考をしていたんだったかは良く思い出せないが、少なくとも将来における名前の影響に凹むなんて事はなかったはずだ。
考えても仕方ない事だが、どうしてこんな事になったんだろう。ただの輪廻転生なら良いが、万が一にもノベルでよくある「小説やゲームの世界への原作登場人物に絡む一員としての転生」等だったら、割りと本気で洒落にならないからな。
ああ、悩みが増えた。
将来の虐め回避だけじゃなく、既知の創作世界への転生でないかという確認も必要になってしまった。
ああ、早く正しい情報が欲しい。
私の両親はいつになったら姿を……って、どこかで物音がしたな。何となく近づいてきているような気がするぞ。いや、確実に近づいて来ている。もうドアの前まで。
思ううちに、カチャリとドアが開いた。
「花恵ちゃん、ただいま。寂しかっただろう、ごめんね」