1-3.
続かないかもしれません。
めがさめた やっぱりだれも いなかった。
という事で、ベッドの上でぼーっと思考に耽る以外に出来る事がありません。故に情報不足が絶賛継続中。
いや、ほんと、どうしたものか。
寝起きですっきり冷静になった頭で、改めて部屋の広さとかベッドを彩る寝具の肌触り、クローゼットに納められていた衣類の傾向を改めて鑑みると、この部屋の住人はそれなり以上には裕福そうだと思われるのだけれど、困った事にその住人が私の両親だという確証が無い。
そもそもの話として、中に居るのに家の記憶が無いというのが意味不明。
どうやらヤバい人生回避の道筋を模索する以前に、自分の素性を思い出す必要がありそうだ。
例えるなら、有名な観光名所への道順を調べようとしていたら、実は自分の住んでいる町の名前と場所が分かっておらず、調べようが無くなった感じだ。よもやスタートラインにすら辿り着けていないとは……。
仕方ない。前世の記憶らしきものが頭の中に溢れる前に私が一体どこで何をしていたのか、を思い出すところから始めるとしよう。
「花恵ちゃん、危ないから足をパタパタしちゃダメよ? ね?」
ノースリーブのワンピースを着た女性が斜め上から私を覗き込んでいる。二十代前半から半ば位で長い黒髪と艶ボクロがとても印象的だ。
「あはは。花恵ちゃんはいつも大人しいじゃないか。心配しすぎだよ。ね? 花恵ちゃん?」
「またそんな風に。もしもの時の事をちゃんと考えておかないと」
前方にある革の壁?の向こう側から朗らかな男性の笑い声がして、女性が少し顔をしかめて嗜める。
どうやら私は車の後部座席に設置されたチャイルドシートに座らされていて、同乗者は私の隣の女性と革の壁もとい運転席の男性。ウィンドウの向こうに見えるのは青空と住宅街らしき町並みで、これから何処かへ出掛けようか、という状況らしい。フィーンという駆動音と共にウィンドウの向こうの風景が、最初はゆっくりと徐々に速く後ろに流れていく。
思い出そう、と明確に意識した事で記憶が繋がってきたようだ。ワンシーンの出来事を思い出しただけなのに、霧が晴れていくかのように次々と、と言っても所詮保育園児なので大した量でもないが、認識と理解が進んだ。
と同時に、前世の記憶らしきものの氾濫が脳に与えた精神的衝撃は、想像以上に大きい物だったのでは無いかと血の気が引いた。
アラサーまで生きた人間の脳におさまっていた記憶というか人格が、保育園児の未発達な脳に再現されるのだ。処理能力や記憶容量を考えたらかなり無茶な話で、発狂とか脳死とかが起きてもおかしくない絶体絶命の危機だったのでは無いだろうかと思う。
前世の記憶らしきものが溢れる前の純粋な保育園児だった自分についての記憶が、思い出そうと強く意識するまでまともに思い出せなかったのは、その所為もあったのではなかろうか。
まあ良い。思い出せた範囲で自己の再認識をするとしよう。
それにしても、私の両親はいつになったら姿を見せてくれるのだろう?