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第一幕 出発前日です!2

「いらっしゃい、ちょうどお菓子が焼き上がったところですよ」

コーヒー豆を焙煎しながらマスターがそう声をかける、テーブル席に座った少女たちはメニューを手に悩む。

「うーん、まずコーヒーは決定ですが、お菓子が悩みどころですね…」

「そうだねー…わたしは…これ!マドレーヌ!」

「ミスズは…うん、バームクーヘン!」

正確にはこの世界にそれらの菓子はない、異世界人の共通スキルである識字変換でもとの世界の最も近しい名詞が割り振られるのである。

「先生?難しいお顔ですがどうしたんですか?」

「いえ、そういえばこの世界には生クリームという物がないな、と思いまして」

その言葉にそう言えば!という表情の三人娘。

「やはりシフォンケーキには生クリームだと思います!」

いうが早いか、マスターに交渉するこより。

「マスター!材料費は出しますから少し厨房を貸してもらえませんか?」

「?ええ、それは構いませんが…?」

金獅子以外の客のオーダーを捌いて待機していたマスターと共にキッチンに立つと、ミルクを取り出し、鍋に掛け、十分に加熱処理をしたあと、何処からか取り出したハンドルタイプの遠心分離機に掛ける、そうしてできた乳脂肪分の高いクリームをボウルに入れ、こよりはミスズを呼ぶ。

「この大きい方のボウルに氷魔法をお願いします」

加減して生み出された短い氷の槍を砕いてそこに手にしたボウルを重ねる、たっぷりと砂糖を投入してシャカシャカとかき混ぜること数分。

「出来ました、ホイップクリームです!」

味見したこよりがウンウンと頷く。

「おお!こ、これは?」

初めて目にするホイップクリームに興味津々のマスター、こよりはティースプーンにクリームを取りマスターに差し出す。

「な!なん…と…滑らかで濃厚なミルクの味わいと甘み…!」

感動するマスターにこれを添えてシフォンケーキを!と告げてテーブルへと戻る。

「えー!よりちゃん凄いねー!あ、じゃあわたしもシフォンケーキが良い!」

「私も…」

「ミスズも…!」

店内のすべての客が私も!と追加注文する。

運ばれて来たシフォンケーキを店内の全員が至福の表情で食べる。

「お客さん、あの不思議な筒を譲っては貰えませんか?」

「はい、良いですよ?」

「ありがとうございます!それとよろしければホイップクリーム?の作り方を…」

それから遠心分離機の使い方と生クリームの精製方法を伝え、フォルテという名前だったケーキをシフォンケーキと名付けた。

材料費と飲食代を払おうとした金獅子にこれ程のものを頂いてお代まではとれません、と固辞するマスターに口々に礼を言い喫茶店を後にした。

後に世界初のショートケーキを作り王宮御用達の職人となるのだが、それはまたのお話。

「よりちゃんが作ったそのポシェット凄いよね、なんでも入るの?」

先程遠心分離機を取り出したのはクマのマスコットがついたポシェットからであった。

「流石になんでもは入りませんけど、乗合馬車5台分くらいなら」

このポシェットの中に、大きなテント、予備を含めて6台のベッド、調理器具一式に食材や消耗品が収まっているのである。

三人娘の肩がけのバッグにもこれ程の大容量ではないが同様の仕掛けが施されており、装備一式が入っている。

「遠心分離機をあげてしまって良かったんですか?」

木製の遠心分離機を譲ったこよりであったが、鉱石から金属製の遠心分離機を作っていたので問題はないそうだ。

「そもそも、よりちゃんお手製バッグ達って、真空なんでしょ?食材も保存できるなんて快適にも程があるよね…」

鮮度管理にも抜かりがない料理好きのこよりであった。

「ただいま!晩御飯はなんですか?」

食材と香辛料の追加を購入して時間を潰したあと、宿に着くなりこよりは食事が気になっている。

「今日は金獅子の最後の食事だからね、奮発してメルメルを仕入れてきたよ!」

「え…メルメル…?なんか…不味そう……」

不安はハズレて、鯛に似た魚の香草焼は金獅子の舌を大いに楽しませたのであった。

そして出発の朝である。

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