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序幕 勇者って、イイね!

教師の興奮は今や最高潮である、勇者パーティー度MAXな三人娘の内の二人があからさまなチートステータスであるから、当然彼女の本命の昴が勇者なのは確定的に明らかなのだから。

「八雲昴、戦士の覚悟をここに」

【クラス 侍 筋力S敏捷SS頑強S魔力A幸運A】

「…なんで?…凄まじく強いけど…!どう考えても勇者…言動が勇者過ぎるこの子が…なんで…侍…?」

驚愕の表情を浮かべて静まり返る訓練場、一人だけ別の衝撃を受けているが。

「…え?…SS…歴史上最速の勇者ですらSだと言うのに…魔王…同情するぞ…」

騎士団長の乾いた声に騎士全員が壊れたロボットの如くただ首を振る。

たっぷり数分間の沈黙の後、やっとの思いで気を取り直した団長が最後のスクロールを教師に差し出す。

「それでは、先生殿も戦士の誓約を。」

その瞬間突き刺さる三人娘の射殺さんばかりの視線。

「ヒィっ…!」

忘我の縁から帰る教師、その瞳がキラキラと輝きを増す、彼女は失念していたのだ、副長は持ってきていたのだ、人数分のスクロールを。

「私も貰えるんですか!こういうのって生徒達しかやらせてもらえないと思ってました…!えへへ〜」

喜色満面の教師が伸ばそうとした手を昴の手が優しく包む。

「いいえ、先生は危険な事をする必要なんてありません。」

「そうだよ!よりちゃんはこの!わたしが!ちゃーんと守るよ!」

先を越された陽子が平たい胸を叩く。

「こより先生は美鈴が守る…!」

腰をかがめた美鈴がそのキラキラの瞳を見つめながら。

「あの…一応、全員能力確認だけはお願いします…」

あまりに殺気の籠もった視線を浴びた団長が青ざめた表情で言い募る。

団長とて、教師に戦力として戦ってもらうつもりなど無いのである。

勇者…いや、勇者を凌駕する三人娘だけで1ダースの魔王でも滅ぼす事ができそうであるのに、教師までも戦わせるなど。

「いえ!教師が生徒達だけに危険な戦いをさせる訳には行きませんから!大丈夫です、能力が低ければここに残りますから!」

何やら、と言うかあからさまに私もスクロール欲しいです!オーラバリバリの教師に苦笑しながらそれならば、と三人娘が道を譲る。

「では、先生殿、戦士の誓約をどうぞ。」

しゃがみ込んでスクロールを手渡す団長、背の高い彼はしゃがまなければ手渡す事が出来ない。

「高天原-A-こより!戦士の覚悟をここに!!!」

瞬間、スクロールから、否、教師の身体から立ち上る光の柱。

【クラス 女神[勇者]筋力EX敏捷EX頑強EX魔力EX幸運EX】

……………なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!

三人娘以外の全員の叫びであった。

「流石は私の、わたしの、美鈴の、…女神!」

三人娘は慈愛に満ちた表情で声を漏らすのであった。

「もももも…も…申し訳御座いません!よもや女神様が降臨なされたとは思いも到らず、数々の御無礼、平に、平にお許し下さい!」

大慌てで駆けつけた国王が顔面蒼白となって平身低頭する、団長が己の限界を超える全力疾走で報告に駆け付けたのである。

「いえ、私は勇者ですので!勇者に頭を下げるなど!勇者なので!」

国王に頭を上げるよう女神…勇者が説得する、そう、彼女は勇者に拘るのである!

暫くの後、一行の姿は謁見の間にあった、勇者こよりの希望で。

「そ、それでは、めが…いいえ!勇者よ!世界のため、魔王討伐の旅に赴いて頂けませんか…いえ!貰いたい…」

やり辛そう…………そんな空気を勇者は読めず返答する。

「はっ!この勇者こより、人々の安寧の為、身命をとして必ずや世界に光を!」

「有難き…いえ!…うむ、ありがたい、そして聖騎士、陽子!侍、昴!賢者、美鈴!その方らは勇者の良き戦友としてこれを助けよ!」

「「「ははっ!」」」

三人娘は一切の迷いなく声を揃える。

「これは旅の資金である、…?え!多過ぎますか?…アッはい…ではこの銅貨100枚を与える!」

何故か宝箱に詰められた金貨を臣下の者が慌てふためいて回収すると、そこに銅貨をパラリ。

めが…勇者は形から入るのである。

「勇者様であればお気づきかと存じますが、スクロールの評価は十分に経験を積んだ場合のものです、旅の道中で研鑽を重ねてから魔王に挑んで下さい」

騎士団長が説明すると、勇者の瞳が輝いた。

「そうですよね!最初からレベルカンストの訳無いですよね!頑張るぞー!」

ゲームも大好きな勇者は、色めき立つ。

とは言えこよりに関しては最初からチートスペックなのであるが。

勇者の冒険が幕を開けた。

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