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第二幕 本当は恐ろしいこより先生!

ユークラウス王国とエルステンベルグの国境付近、ガナン平原では両国が睨み合い、今や遅しと開戦の合図を待っていた。

侵略者であるユークラウス王国の兵力は大凡6万、対してエルステンベルグ側の兵力は2万8千、誰が見ても戦争ではなく蹂躙になるであろう事は明らかである。

殺戮とその後のお楽しみに狂気を隠しもしないユークラウス兵、反対に死を覚悟して尚引く気はない、エルステンベルグ兵の悲壮な顔、その瞳に宿すのもまた、死兵としての狂気。


「先生、どうやら王が開戦の口上を。」

平原南部の高台から様子を探っていたスバルが告げる。

その言葉通り、両陣営から1人ずつ、見るからに豪奢な甲冑に身を包んだ者が前に出る。


「偽勇者などに肩入れし、愚かにも我が国に弓引く愚者共よ!彼の者どもを差し出し、平伏するというのならばその命だけは助けてやろう!」

何処までも自分勝手な、しかし征服者然としたその言葉に士気の上がるユークラウス兵。


「誠に愚か!聞けば彼の勇者様は女神様の化身と言うではないか!その御身のために我等信徒が心身を捧げるは至極当然、この場にて御神に代する不敬を断罪してくれる!皆よ!我等が信仰を示すは今この時をおいて他になし!死を恐れるなかれ!」

「そうだ!我等の命は御神の為に!これこそは聖戦だ!」

「そうだ聖戦だ!」

「神の御下に!」

さながら呪いの如く死を崇高な物へとすり替えていくエルステンベルグ兵もまた士気軒高。


両陣営の口上が終わり、開戦の角笛が鳴らされた。

その瞬間、戦場の中心に遥か上空から降立つ者がある。

「はーい、ストップですよー、この戦争はここで終戦です。」

まるで子供の喧嘩を諫める程度の何気ない一言で両国の魔法兵、弓兵がその動きを止める。

動けばその瞬間に全てが終わると察して。

「黙って聞いていれば双方下らない事を、神を奉ずるのは勝手ですが、誰が命を捧げろなんて言いました?勝手に死んで納得するな!愚かしい!   そして愚王ババフォンス、貴方には死んでもらいます、その愚王に従うと言うのならその他大勢の兵の皆さんもまた同様に。」

その一言に気圧された者、神の言葉を聞いて己の愚かしさに気が付いた者は止れた、しかし止まれなかった者達は須く代償を払う事になる。


「警告はしました、なので、今この時、殺意を持ったものに命じます、自害しなさい。」

こよりがそう言った瞬間、戦場のそこかしこで異常が起こる。

「い、嫌だ!誰か!俺の腕を止めてくれ!やめろ!俺は、おれ、は、自殺なん、」

「おい...お前、なん、で、立ったまま死んで...嘘、だろ?はははははははは」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


この数秒で戦意を持つ者は皆無になった、ユークラウス兵の死者は大凡5万、対してエルステンベルグ兵、死者2千。


「分かりましたか?死なんてものは崇高でもなんでもない、聖戦などと言うのが下らない幻想だと、そして、ただ己の身勝手な欲望を満たす為の殺意が如何な代償を必要とするのか、それが理解できたなら、大人しく座っていなさい。」

その言葉を聞いて全ての者が武器を捨て、力無く座り込む、愚王ババフォンスを除いて。


「愚王よ、貴方は何故自分が生かされたか、分かりますか?」

「ヒィッ! わた、、わ、私は、王である!私を殺せば民草は露頭に迷う事になるのだぞ!    ! 見るな!化け物め!嫌だ!来るなあああああ!」

ゆっくりと、確実に近づいてくるこよりに、恐慌をきたしたババフォンスが近くに落ちていた持ち主の無くなった槍を我武者羅に振り回す、その姿には王たる威厳など、否、男としての尊厳すらなく、哀れでしかない。


「分かりませんか?せめてそれが分かるなら一思いに苦しませず殺そうと思ったんですが...残念ですね」

こよりはそう呟きながらポシェットからハンドガンを抜き出す、右手に黒いオートマチック拳銃、名を救済、左手に白いリボルバー拳銃、名を絶望。


両者の距離が手を伸ばせば届く距離まで近づく。

恐怖に支配された愚者の槍がこよりの腹部を貫く。

「やった!化け物め!死ね死ね!」

貫通した槍を無茶苦茶に抜いては突き刺し、こよりの原型を留めない肉塊へと変えていく。

疲れ切った愚者がその手を止めてへたり込む。


「それで終わりですか?なら今度は私の番ですよね?」

こよりの変わらぬ声が響き、驚愕のままに視線を走らせる愚者が、自分の背後を見る。

そこには一片の傷もなく、ただ静かに佇む少女。

「可哀想だとは思わないんですか?ソレ、貴方の息子さんですよね?」

「え?」

言葉の意味を理解してはいないが反射的に自分が突き殺した肉塊を見る。

「あああ、あああああ!グランス!何故お前が死んでいる!誰が!誰が殺したのだ!」

「誰が?って、貴方が、今、その槍で、滅多刺しに、しましたよ?覚えていませんか?」

「嘘だ!我が子を殺すなど、俺がするわけがない!この魔女め!お前がやったんだろう!!」

今度こそこいつを殺す!そうしてまた、目の前のこよりをただひたすらに差し貫いた。


「酷い人ですね?子供だけでなく、妻も手にかけるんですか?よく見てくださいよ、その死体。」

今度は耳元で聞こえた声に、こよりの死体に目を向ける。

「な、んで?俺が殺した?...嘘、だろ、?リビエラ、何で死んでる...?目を、開けて、くれよ...」


「貴方が今まで身勝手に攻め滅ぼした、国の死者、その全てが今の貴方と同じ絶望の中で死んだのでしょうね、今度が貴方の番で何かおかしいですか?」

「あぁ...そうなのか...俺は、こんな事をしていたのか...国の為、民の為だと、そう言いながら、こんな事を、もういい...こんな地獄の中で生きるくらいなら、いっそのこと殺してくれ...」

「いいですよ?もともと貴方を生かしておくつもりもありませんでしたし。」


「ああ、リビエラ、グランス...今からお前達のそばに行くぞ...」

こよりが黒い拳銃の引き金を引く。


その瞬間、愚者の世界が終わった。

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