序幕 友情って、イイね!
呆けた表情の陽子に近づく昴、少しばかり見えている廊下?の様子、そして廊下?から聞こえる何やら歌のような言葉。
状況のわかっていない部員達が不思議そうにドアへ近づく。
「部長、退いてください。」
昴が注意しながらドアの外を伺うと、そこには…
一面の緑、そして少し離れた先にひざまづく白い服の集団。
あからさまにそこは廊下ではない。
「お待ちしておりました、異世界の戦士たちよ…」
…
…
…
「はぁ…つまり…ここは私達の世界ではない、と…?」
暫く盛大に混乱していた生徒たちを落ち着かせ、よりちゃん先生が代表して異世界人?と話していた、やはりそこは教師であり、生徒たちの安全に責任がある。
「然り、我等はあなたがたを迎えるために王国から遣わされた召喚師です。」
あの部室から20分程歩いた場所にある長閑な村、その宿の広間で話合いは行われていた。
何故に慌てることなく教師は話込めるのか? それはそのはず、彼女は読書家であった、その手のファンタジーの愛読者である。
「ええと、この世界には魔王がいて、それを倒すために彼女たち勇者が喚ばれた、そんな感じですよね…?」
おお…! と声が上がる、彼らとしてもこんなにスムーズに話が進むとは思っても見なかったのであろう。
「そのとおりです、もしや貴方様は元の世界の賢者様ですか?」
その言葉に頭を抱える教師、幾ら理解が早いと言っても、生徒達に命懸けの戦いなどさせられるわけがないのであるから。
「…申し訳ないですが、御断りします!彼女たちは私の大事な生徒達です!命をかけて異世界の為に戦え、等と言える訳がありません!」
その毅然とした言葉にホッとする生徒達、彼女たちも魔王等と言うものに戦いを挑むのは怖いのである。
「…そうですか…確かに、年端もゆかぬ、それもこの世界に縁もない少女に無理に戦えとは、心苦しい…」
存外にあっさりとそう言った召喚師達に意外な思いの教師、大体の物語なら、有無を言わさず戦えと命じるのがこの場合のお決まりである。
「でも、魔王を倒さないと帰れないんですよね?」
「はい、ですが戦う意志が無いのでしたら、王都で魔王が滅びるまでの間保護させていただくことは可能です」
ああやっぱり、帰るのは無理なのかー…教師はほぼ確認の言葉を肯定され溜息を吐く。
そこへ今まで黙っていた昴が言う、何故か教師の手を握りながら。
「先生、私は戦います」
キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!この子絶対勇者だ!
そのような感情をひた隠し、教師は話す。
「駄目よ、八雲さんの勇気は素晴らしいけれど、もしかしたら、いいえ、絶対に辛い事がある、下手をすれば死ぬかもしれないのよ?」
「…なら、わたしも一緒に戦うよ…昴だけじゃ心配だしね!」
陽子が、意を決してそう続く、何故か教師の手を奪うように握りながら。
「二人が行くなら美鈴も行くよ!幼馴染なんだから!」
涙を堪えながら美鈴もそう言った、これまた何故か教師の手をがっしりと掴みながら。
それを見た他の部員達が生暖かい微笑みを四人に向ける。
教師は思う、絶対この子達勇者パーティーだ!!!
…
…
…
それから1週間後…
王都に向かう馬車の中には剣道部+教師の姿があった。
「楽しみだよねー!この世界のご飯美味しいし、王宮の御馳走って何が出るのかな?」
「かな恵、食欲に忠実だよね…」
これである。
仲の良い女子が集まって自分とは縁がなかった王宮等に呼ばれれば、つまるところは、キャッキャウフフ、になるのだった。
「皆さん浮かれ過ぎですよ、くれぐれも王宮では粗相のないように!」
そう注意しながらも、教師の顔も笑顔である、ファンタジー!しかも王宮!キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
心ここにあらずの教師の隣には昴、反対には美鈴が腰掛け、正面に座る陽子だけがやや不満げであったが、誰もがソワソワとしていたので、気が付いた者は居ないのであった。