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第一幕 @ホームな職場です!

その瞬間、教師の胸に訪れたのは喜びなどではなく、安堵だった。

生徒達の素質が非常に優れた物であるのは間違いない事実であるが、生徒達だけに危険な役目を負わせるなど出来ようもない。

だから、生徒たちを守る力を得たのだと思えばこその安堵。

勇者であろうがなかろうが、教師は同行する決意であった。

そして教師が危惧していた危機が迫った、少女達が殺人を迫られたのだ。

教師とて、人を殺す事になんの躊躇いもないなどと言う事はない、それでも、愛する生徒達の手を汚させる事になるよりは、自身がその罪を背負うと決めていた。

動揺する自身の心をねじ伏せ、彼女達にこの世界ではやむを得ない事だと告げた。

その言葉は知らず、自身への免罪符でもあったのかも知れない。

その夜、教師は誰知らず涙した、彼女が敬愛する恩師は殺人を犯した自分をどう思うのか、と。

彼女は生まれながらの天才であった、幼稚園に通う頃には家にあった本の内容はすべて記憶していたし、小学校に入学した時には既に中学高校程度の授業では知識欲が満たされない事も判っていた。

そんな彼女に周囲は、否、両親でさえ普通の子供らしさを許してはくれなかった。

周りの大人達はすべからく彼女に期待したし、その通り彼女はすべてに最高の結果を出し続けた、必然的に期待は高まり益々子供ではいられなくなった。

当然のように飛び級で高校に通う事になった彼女は、そこですら他の追随を許さぬ成績を見せつけた。

大人達は期待を、同級生達は嫉妬を、そんなおりに同級生の嫌がらせで些細な怪我をした彼女を、保険医のみなもは幼い子供に接する様にこよりを可愛がった。

こよりにとって自分を特別扱いしない大人はみなもと曾祖母だけであった。

「みなも先生は、なんでわたしに優しいの?他の人達は皆わたしに期待だけして優しくなんてしてくれないのに…」

そう聞いたこよりに、みなもは笑って、子供が子供らしく居られないなら大人なんていても意味ないじゃない、と返したものだ。

それからこよりは保健室に入り浸った、みなもはそんな彼女に子供なんだから大いに遊びなさい、とゲームや漫画、ファンタジー小説などを与え、時には一緒になって遊んでくれた。

高校生活は半年にも満たない短い間であったが、こよりはこの少し不真面目でとても優しい先生に憧れて教師を目指したのだった。

「みなも先生でも、私が殺人者だって言ったら怒るよね…?」

当然の事を当然に考えるみなもは自分の罪を責めるのではないか?とこよりは落ち込んだ。

みなもが今の彼女を見れば、そんな事はあり得ない!と別の意味で怒るのだが…

しかし彼女がその弱さを生徒達に見せることはない、彼女はあくまでも教師であった。

「よし!出来ました!皆さんが喜んでくれると良いのですが」

こよりは完成したコテージの前でニッコリと笑みを浮かべた。

彼女が3日の休養を採る事にしたのはこのためであった。

休養明けて滞在4日目、金獅子の姿は街からほど近い平原にあった。

「皆さん、これから先の旅に備えてこんなものを造ってみました、気に入ってもらえればいいんですが…」

そう言ってポシェットからコテージを取り出す。

「「「え…?」」」

三人娘は一様に間抜けな声を漏らす。

「うーん…だめでしたかねー…」

「違うよ、よりちゃん!あんまりにも大きな物が出てきたからびっくりしただけで駄目だなんて!」

ヨウコの言葉に同意して首を振ると、スバルが問う。

「先生、中を見ても?」

はい!自信作です!とこよりが扉を開ける。

中は18畳程の広いスペースにベッドが6つとキッチンや暖炉があり、そしてこれがこよりの一番力を入れた場所なのだが…

「うわぁー!凄いですこより先生…!まさかお風呂とトイレまであるなんて…!」

そう、旅先でも女性らしく、と、こよりは風呂とトイレを作っていたのである。

「お風呂は魔法を使ったシャワーとかけ流しの檜風呂、トイレは地下水脈に繋げた水洗式です!」

キラキラした瞳で自分を見つめるミスズに、えへん!と胸を張るこより。

「これからの旅では長く宿に泊まれない事もあるかと思って、一軒コテージを作っちゃいました!えへへ」

「ありがとうございます、先生、これなら安心して寝泊まりできます」

「ありがと!よりちゃん最高!」

「ちゃんとお風呂に入れるなんて…嬉しいです…!」

それからしばらく、こより自慢の設備について説明が続いた。

キッチンの冷蔵庫は世界に満ちる魔力で永久的に風魔法と氷魔法によって冷気が循環し、暖炉や風呂などもオートメーション化されているのであった。

「と、言うわけで、少し長く掛かりそうな討伐依頼を受けて来ましたから、修行も兼ねて出発しましょう!」

「「「おおー!」」」

意気上がる金獅子であった。

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