第一幕 はじめてのサヨナラです…
商人達のギラついた目をのらりくらりとかわしながらの旅も6日目に突入していた。
すでに2つの村を過ぎて、明日には目的地の一つ手前の村に到着する見込みである。
「うーん、よろしくないですねー…」
「先生?どうしたんですか?」
心なしか険しい表情のこよりにスバルが問いかける。
「200メートル先におそらく盗賊さんです」
三人娘の顔に緊張が走った、モンスター相手の戦闘はそれなりにこなしてきたが人間を殺す事は考えない様にしていたのだ。
「んー、とりあえずは説得してみましょう、お金で片付くなら平和が一番です」
ややあって、やはり盗賊の一団がこちらへ歩み寄る。
「止まりな!荷物と有り金寄越せば殺しはしねぇ、死にたくなければ…わかるよな?」
「うーん、荷物の半分と金貨80枚で手を打って貰えませんか?出来る事なら生徒に殺人はさせたくないですし…」
「あん?何だガキ、ずいぶん金持ってるみてぇだが…」
馬車を庇う位置に出た金獅子に下卑た視線を向け、値踏みする盗賊の頭。
「ガキの頼みじゃしょうがねぇ…と言いてぇ所だが、駄目だな、どう考えてもお前ら4人と荷物のほうが金になる、その上金まで持ってるとありゃあ尚更だ」
「頭ぁ、売り飛ばす前に味見くらいさせて貰いてぇなぁ!」
ちげぇねぇ!と合唱が起こる、全部で8人、荒事に慣れた男共が相手ではモンスターよりも質が悪い。
「やっぱりそうですよね、出来れば穏便に済ませたかったんですけど…」
「ガキがなにこましゃくれた事言ってやがる!良いからおとなしくこっちにこいや!」
頭がこよりの腕をつかもうとした瞬間、横あいからスバルの鉄拳が狙い違わずその頬にめり込み、頭の意識を刈り取った。
「先生に…手を出すな!!!」
「あらら、久しぶりにスバルが怒っちゃったよ…まああたしもキレそうだけどね…!」
「ミスズも…!あなた達は痛い目にあうべき…!」
一撃で頭を倒されて唖然としていた盗賊達が一斉に武器を構えて躍りかかる、殺さない程度にダメージを負わせる気だ。
木を削っただけのこん棒をヨウコの肩口めがけて振り下ろす、が、後ろに倒れ込むように身をかわしたヨウコが流れる様に男の膝に蹴りを叩き込む。
「ぎぁっ!膝が、膝が…!」
右の脚が膝から鳥の足のように折れ曲がっていた。
一つ。
「この糞が!」
木の槍を力任せに振り払うが既にヨウコの姿はそこには無い、ブリッジの要領で地に手をついて後方に半回転したヨウコは槍を引き戻すよりも速く即頭部にハイキックを見舞った。
「っ…」
声もあげず男は意識を手放した。
二つ。
ヨウコの左前方ではミスズが大男と対峙している。
小柄な少々に武器は不要と判断したのか、ミスズの両肩に掴みかかる、捕まえた!そう口元を歪めた瞬間、ミスズは大男の両肘にようそのヒ・ミ・ツを振り下ろした。
「いぎゃぁぁぁっ!」
両腕をだらりとさせて絶叫する。
三つ。
スバルは三方向から囲まれていたが、その表情に恐れはない。
腰の剣に手を伸ばそうとした男が顎先を掠めるような打撃を受けて崩折れる。
四つ。
曲刀を抜き放った小男の鳩尾に拳がめり込む、胃液を吐いて蹲る小男。
五つ。
直剣を腰だめに構えて突進する男に、足元にあった子供の拳ほどの石を蹴り飛ばす。
六つ。
ミスズの背後からスローイングナイフを投げようとした男は…
ターン!
こめかみを撃ち抜かれて絶命した。
「…生徒を死なせるくらいならば、この手が血に塗れる事を厭いません、サヨナラです…」
続く銃声は七度、何れも即死であった。
こうして盗賊たちは永遠と平等に出逢った。
「先生…」
「よりちゃん…」
「ごめんなさい…こより先生…」
抵抗する術を失った者に対して表情を変えることすらなく死神の鎌を振るったこよりに、商人達の畏怖の視線が向けられた。
「…流石はBランク冒険者ですな…いえ…」
それ以上の言葉は誰も持ち合わせていなかった。
 




