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序幕 ココ…何処…?

またねー! スタバ寄って帰ろうよー。

なんの変哲もない放課後である。

剣道部員である少女は竹刀の包を手に教室を後にする、廊下ではこれからの予定を楽しそうにおしゃべりする生徒たちや、同じく部活に向かうのであろう忙し気な生徒がさざめいている。

さほど遠くもない部室棟まで、急ぐ必要もない少女はそんな風景を眺めながら歩く。

「昴!今日も何考えてるかわかんないわね!」

部室まであと少しの所で元気な声に振り向いた。

「部長、お疲れ様です」

少女、八雲昴は抑揚のない声で挨拶を返す。

部長と呼ばれた少女、掛川陽子も、そんな昴の愛想のない態度を気にするでもない。

「はいよおつかれ、って、わたしたちはこれから疲れるんじゃない。」

そんな言葉を返しながら部室の鍵を取り出す。

この学校には剣道場など無い、そもそもとりたてて部活動が盛んであったり、上位を目指してひたむきに打ち込む、という情熱的な生徒で溢れているわけでもない。

だから部室棟とよんではいるがこの棟もただの旧校舎である。

「あ~、昴、また開かない、頼んだ。」

鍵穴が歪んでいるこの部室のドアを開けるにはコツがいる、何時も開かない、と言う訳ではないが、時折ご機嫌ナナメになるのだ。

「はい、先生を呼んできますね。」

そう返事をすると昴は来た道を戻る、こうなってしまったドアを開けられるのは何故か関係者でもない教師ただ一人であった。

職員室のドアから中を覗くとすぐに目当ての人物を見つける。

「すみません先生、また部室のドアが開きません。」

あらら、と一声上げると教師は微笑みながら立ち上がる。

教師を伴って昴が戻ると、部員が全員集合していた。

「お!ささっ!先生!お願いします!」

陽子がおどけて時代劇の真似をした。

苦笑しながら教師がさも簡単そうに鍵を開ける。

「ありがとねー!…よりちゃんが居なくなったらこのドア開かないんじゃない?」

集まっていた全員がウンウン、と首を降る。

「よりちゃんセンセイ!お茶していってよー!」

一人がそう言うとイイね!の合唱、やや困った顔の教師が遠慮がちに頷いた。

部室に入ると下級生の中でも身長の低い部員がお茶の準備を始める、彼女はマネージャーの崎守美鈴、剣道の事はあまりよく知らないが、昴と陽子、美鈴の三人は幼馴染であり、特に活動的ではない美鈴は陽子達と一緒が良い、という理由で剣道部員になったのである。

実はこの三人組、学校では知らぬ者のない有名人である。

分け隔てなく誰にも気安い態度と明るく活発、そしてボーイッシュで可愛いと言える顔立ちの男女問わず人気な陽子。

物静かでミステリアス、スラリとした、女性としてはやや高い身長で、長く美しい黒髪の掛け値なしの美少女であり、全国レベルの剣道の腕前を持つ昴、男子生徒はやや近寄り難いのか、女子人気が高い。

やや控えめで気弱な小動物的な雰囲気の小柄で愛らしい顔立ちの美鈴、こちらも男女共に人気ではあるが、庇護欲をそそるその存在感は男子の一部に熱狂的信者を持つ。

誰が呼んだか雪月花三人娘は、この学校のみならずあたり一帯のアイドルであった。

そんな彼女達と仲良くお茶したりおしゃべりしたい!そんなやや不純な動機で集まったのがこの女子剣道部の部員であった。

暫くして皆のお茶を淹れお菓子を用意した美鈴が座ると、いつもの様に他愛もないおしゃべりが始まる。

部員8名、女子剣道部の日常である。

陽子のそばには1.2.3年の一人づつが、美鈴には2年の二人がピタリとくっついている、昴はそれを眺めながらよりちゃん先生と二人。

ゆったりとした時間が流れるこの部活が皆にとってかけがえのないものなのである。

そうして40分ほどが経ったであろうか、不意に昴が気が付いた、常ならばそれなりに騒がしい部室棟、それが少し静かすぎる事に。

「他の部活はどうしたのかしら?まだ下校には早過ぎませんか?」

その言葉に怪訝な面持ちの陽子が廊下を見ようとドアを開け、そして直ぐに閉める。

「えっと…?」

何度か同じ事を繰り返し…

「ココ…何処…?」

困惑の表情で皆に振り返るのであった。

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